「路上で乾燥海産物を〜」 広がるデマ、広げてはいけない理由 モバプリの知っ得![30]


「路上で乾燥海産物を〜」  広がるデマ、広げてはいけない理由 モバプリの知っ得![30]
この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

10月26日、私のLINEに複数の人から同じ文章が送られてきて、とても不安になりました。
以下、全文掲載します。

先程、教育委員会から来た情報です。
なるべく多くの方に教えてください。

警察署に通う方から来たメールです。
必ず読んで下さい‼
知らない人が路上で接近して来て、乾燥海産物をおすすめして、販売しようとしながら、一回味見をしてとか、臭いを嗅いでとか言われたら、絶対絶対しないでください。

海産物ではなく(エチルエーテル)1種類の
麻酔薬で、臭いを嗅いだら意識を失う。
中国から来た新しい犯罪である。
周囲へ広く知らせて下さい。実際、事件発生、臓器売買してるそうです。特に、友達や親戚に是非伝えて下さい。

周辺の知人達に、巻き込まれないように周りの方に伝えて下さい。
用心するに越したことはないので皆さん気をつけてください‼

私が不安になったのはメッセージの内容…ではなく、「デマ」のような文章が広がっているからでした。

実際、この文章は「都市伝説」の一種で、事実に基づかない情報でした。

「エチルエーテルで意識を失わせて強盗」はデマ。2010年に韓国で流行った都市伝説

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

しかしながら「デマで良かった、安心した」で終わる話ではありません。
この連載でも何度もデマによる被害、デメリットをあげてきました。

デマは他人事ではなく、自分や大切な家族・友人が突然巻き込まれる可能性がある非常に恐ろしいものです。

デマを広め、被害者を増やさないためにも、デマの怖さ、見極める方法を改めて考える必要があるでしょう。

善意のつもりが誰かを危険な目に…

さて、今回のデマもほとんどの人が「みんなに知らせなきゃ!」と善意で拡散したと思います。

「これ、本当かな?」と少し疑っていても、人身売買なる仰々しい言葉を見ると、「たとえデマでも、警戒するに越したことはない」と思い、拡散させたくなる気持ちも分かります。

しかしながら、デマが発生し「この人が犯人です」「怪しい」と吹聴された人が、危険な目に会うことがあります。

先月、東名高速の事故をめぐり、北九州に住む会社社長が「事故容疑者の父親」とデマをネットに書き込まれたことで、苦情の電話が殺到。会社を休み、家族も学校を休んだとのことです。

「デマ」と「私刑」 加害者にならないために冷静な対応を モバプリの知っ得![29]

沖縄でも昨年12月、「この男性がクリスマス前に、美浜でテロを計画しています」とアフガニスタン出身の男性の顔写真が拡散されました。この投稿もデマでした。

沖縄市のアフガン出身男性、「米軍狙いテロ」とデマ被害

この事例では、疑いをかけられたデマ被害者に「怒り」がぶつけられる形になりました。
ネットでは「許せない」とのコメントも散見されました。
勝手にテロリスト扱いされた人の気持ちを想像してみてください。デマによって名誉が傷つけられただけでなく、強い恐怖を感じたと思います。

逆の立場になって想像してみましょう。
私たちが外国に住み、現地で「テロリスト」として噂され、現地の人が怒っている。
慣れない土地で、言葉に苦労しながら生活している中で、誤解されてしまったら…少し考えるだけでゾッとします。

デマは「なかったこと」にはできない

ほとんどのデマは、拡散と訂正の広がりが一致しません。
デマは拡散時のスピードが早く範囲も広いのに対し、訂正の情報はそこまで広がりません。

その結果、デマを「信じたまま」の人が多くなる傾向にあり、疑われた人は一生苦しめられることになるのです。

話を今回の「乾燥海産物」のデマに戻しましょう。
このデマでは怪しい人の名前や写真こそ出ていないものの、「中国から来た新しい犯罪である」と中国人や中国が関与しているように受け取れる一文が載っています。
デマを信じた人が「中国は怖い国だ」と偏見を持つことによって、トラブルが発生する可能性もあります。

現に「この件がデマだとしても、中国人ならやりかねない」などの偏見に満ちたコメントも見かけました。
今のネット社会は、こうしたデマの積み重ねで偏見が増幅され、最終的に「あいつらならやりかねない」につながています。やはりデマはデマとしてしっかりと指摘しなければなりません。

北九州の男性も、在沖アフガニスタン人の男性も、そして今回は挙げられなかった多くのデマ被害者の方も、ある日突然疑いをかけられ、ネットにその情報が残り、それを信じた人たちによって苦しめられています。

デマを拡散するきっかけが例え善意でも…その情報が回り回って、誰かを苦しめることになるのです。

テクノロジーが発達し、誰もが簡単に情報を発信できるようになったからこそ、加害者にならないように気をつけなければいけません。

デマを見分ける方法

多くの情報の中からデマを確実に見分ける方法…気になると思いますが、残念ながら簡単にデマを見分ける方法はありません。

偉そうに書いている私も、100%デマを見分ける自信はありません。
まだ気がついていないだけで、ネットの書き込み・デマを鵜呑みにしていることがあるかもしれません。

だからこそ、情報を取り込む際は「誰が」「何を根拠に」書いているかを意識することが大事です。

今回の件では、「仮に人身売買が行われているなら、事件として警察やマスコミが発表するんじゃないか」と推定して他の情報を調べることができます。

見極めのポイントである「誰が」の部分は「警察署に通う方」という非常に曖昧なものです。「根拠」も警察が発表した資料なども添付されていない、文字による書き込みだけのものでした。

このように、こつこつとデマに注意することを続け、トレーニングをして筋肉をつけるように、デマに対する耐性をつけて加害者にならないようにしましょう。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」11月5日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

http://smartphoneokoku.net/