やわらか具材、香るだし 中身汁


やわらか具材、香るだし 中身汁
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 沖縄の伝統行事や祝いの席に欠かせない料理の一つが「中身汁」。豚の内臓をだしで煮込むシンプルな汁物だが、家庭ごとにこだわりの味がある。

何度もゆでこぼして油やあくを抜いた中身がたっぷり入った自慢の中身汁=20日、名護市大北

 具志堅初江さん(90)=名護市大北=のお宅でも正月の定番料理は中身汁だ。孫たちの大好物で、お土産に持たせる分も含めて大鍋二つ分仕込むという。

 「細かい作業は苦手。中身汁やソーキ汁は肉を煮るだけで一気に作れるから簡単なの」と初江さんはいうが、その行程は手間が掛かっている。

 こだわりは濁りのない澄んだスープだ。豚の中身を3回ゆでこぼして油やあくを除く。豚肉の肩ロースは細かく切って一度湯洗いしてから煮込むことでくず肉が出るのを防ぐという。

 「昔は中身の処理が不十分で臭みが強かったから、小麦粉で何度ももんで臭みを消したの。大変だったよ。今はずいぶん楽になった」と話す。いえいえ、今でも十分、手間暇が掛かっていますよ。

 中身を煮込む間、初江さんは台所をところ狭しと俊敏に動き回る。干しシイタケを“超高速”の包丁さばきで刻み、ざるで水切りをする時もぴょんぴょんと跳ねるようにリズミカル。驚くほど元気いっぱいだ。

 できあがった中身汁をたっぷりと、汁わんによそってくれた。口に含むとかつお節とシイタケのだし汁が体に染み渡る。よく煮込まれた中身は軟らかく味わい深い。「おいしいなぁ」。つい言葉が漏れた。

 幼少期から終戦まで福岡で過ごした初江さん。学生時代は軍需工場に動員され、落下傘を作るために麻を紡いだ。親元を離れた少女たちが夜の静かな工場でしくしく泣く様子が忘れられないという。

 終戦後は家族で両親の古里の沖縄に引き揚げた。住み慣れない土地での暮らしは苦労が多かったが、結婚して3男2女に恵まれた。当時、女性では珍しい区長も務めた。その後も婦人会長や民生委員などさまざまな役職に就いた。

 現在は名護市食生活改善推進員協議会(通称わかめ会)の最高齢会員として精力的に活動。自宅のカレンダーには予定がびっしり書き込まれている。「何事もなせば成る。勇気を持って挑戦するからこそ進歩がある」。初江さんの人生訓だ。

 中身汁をすすりながら、初江さんの「思い出の味」を尋ねた。若かりし頃に食べた、豚の腸にもち米を詰めて蒸した料理が思い出深いという。

 「昔の沖縄では正月に豚1頭をつぶして家族や隣近所で分けて食べた。豚の腸を丸ごと使った腸詰めはアジクーターでおいしかった。今は食べることのできない“幻の味”」と懐かしむ。

 今月18日に90歳を迎えた。「子や孫、ひ孫たちに祝ってもらった」とうれしそうに話す。「感謝」と「幸せ」が口癖だ。

 戦前戦後の激動の時代を常に全力で生きてきた初江さんだが、「まだまだ学びたい」と意欲は尽きない。「一日一日、悔いのない人生を」という初江さんの瞳はきらきらと輝いていた。

文・赤嶺玲子
写真・大城直也

澄んだスープにやわらかな豚の内臓とシイタケ、こんにゃくなどが入った中身汁(手前右)に、自家菜園でとれたチシャのあえ物(後列右端)やクワンソウの酢の物(同中央)、キュウリの漬物を添えて

中身

 豚の「中身」とは内臓(腸や胃)のこと。中身汁は沖縄の祝い事には欠かせない定番料理の一つ。

 中身に小麦粉をまぶしてもみ洗いし、何度もゆでこぼしをすることで臭みが消える。最近は下処理された中身も販売されており、調理しやすい。

 汁の他に、炒め物にしてもおいしい。

(2017年11月28日 琉球新報掲載)