沖縄でなぜ事故が多いのか? 米軍ヘリから透けるアメリカの事情


沖縄でなぜ事故が多いのか? 米軍ヘリから透けるアメリカの事情
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老朽化が指摘され、事故やトラブルを繰り返している米軍の大型輸送ヘリコプターCH53E=2017年10月19日、宜野湾市の米軍普天間飛行場

 沖縄県宜野湾市の普天間第二小学校の運動場に2017年12月13日午前、米軍普天間飛行場所属のCH53E大型輸送ヘリコプターの窓が落下するという事故が起きました。児童の体育の授業中に、空から重さ約7.7キロの窓を落としてしまったCH53Eという海兵隊の大型ヘリ。実は今年に入り、事故や不具合を相次いで起こしています。なぜ、このヘリに関連する事故が多発しているのでしょうか。その背景にはある事情があります。

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1週間もたたないうちに

 普天間飛行場所属のCH53Eは今年(2017年)に入って、事故や不具合が続いています。1、2月は着陸装置の故障、6月に久米島空港への緊急着陸、10月には東村高江で不時着・炎上事故が発生。3、4月には沖縄県が反対してきた米軍車両をつり下げた同型機の訓練が読谷村で確認されていました。

牧草地に不時着し、炎上する米軍のCH53Eヘリ=2017年10月11日(西銘晃さん提供)

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 12月7日午前、普天間飛行場に近い保育園の屋根に、米軍のものと見られるプラスチック製の筒が同園のトタン屋根に落下しました。海兵隊は、落下物と同じ部品がCH53Eにあることは認めた上で、「飛行中に落下した可能性は低い」という見解を示しています。それから1週間もたたないうちに、普天間第二小学校への窓の落下事故が起こりました。

普天間第二小学校の運動場に落下した米軍機の窓と現場を調べる職員ら=2017年12月13日(宜野湾市提供)

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そもそも「CH53E」って?

 CH53Eは、米ロッキード・マーティン傘下のシコルスキー社が製造した重量物資輸送などを目的としたヘリ。1981年から米海兵隊で導入されています。別称はスーパースタリオン(Super Stallion)。3基のエンジンを搭載し、米軍が使用しているヘリでも最も大きく、全長約30メートル、高さ約8メートル、回転翼の直径24メートルあります。米軍車両をつり下げて飛行することもできます。CH53Eは、04年に宜野湾市の沖縄国際大に墜落したCH53Dの後継機ですが、海兵隊の導入から既に30年以上がたち、順次退役が決まっていました。

 しかし、その後継となる新型機CH53Kは開発が遅れています。2006年に海兵隊とシコルスキー社は契約を結び、当初は2021年度までに完全配備される予定でしたが、開発期間やコストが膨らみ、今年4月にようやく生産体制が整ったばかりです。海兵隊の2017年航空計画によると、新型機配備は2019米会計年度開始を予定していますが、完全配備の2029年度まで、既に老朽化が進んでいるCH53Eの運用を先延ばししなければならない状況です。CH53Eの部品は既に製造停止になっているものもあり、防衛省が米国防総省に対し、海上自衛隊の同系機MH53Eの部品提供を実施していましたが、その提供期間も本年度で終了しています。

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海外でも事故続発

 米海軍安全センターの事故統計では、2017米会計年度中、機体が大きく破損したり、死傷者が出たりするという事故の規模が最も重大な「クラスA」のCH53E事故が2件、いずれもアリゾナ州ユマで発生しています。2015年9月には、ノースカロライナ州キャンプ・ルジューン海兵隊基地でCH53Eが宙づり訓練中に墜落し、乗員1人が死亡、11人が負傷。2016年1月には、ハワイ州オアフ島沖で同型機2機が衝突、墜落する事故があり、12人が死亡しています。

 CH53Eは、海兵隊が世界各地で軍隊や軍備品輸送のために使用しており、イラクやアフガニスタンといった戦闘地域での任務で既にぼろぼろ、と軍事専門誌などが何度も指摘しています。加えて、オバマ前政権下での強制的な予算削減で国防予算の上限額も定められたため、米連邦議会の軍事委員会や米国防総省は、事故の原因に、国防予算の制約・削減があり、機材不足や整備に深刻な影響を与えていると訴えています。米軍の再建・増強、即応態勢には、国防予算の増額が必要だという主張です。

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 2001年9月11日の米中枢同時多発テロをきっかけに、ブッシュ大統領(当時)が「テロとの戦い」を掲げ、米軍のアフガニスタン侵攻に踏み切ってから既に16年。ベトナム戦争よりも長く、アメリカ史上最長となったアフガニスタンでの戦闘は続いています。オバマ前大統領は2014年にアフガニスタンでの戦闘任務完了を宣言し、完全撤退を目指しましたが、トランプ大統領は反対の立場を示し、2017年8月に米軍の増派を決めました。

 長期化する戦闘で疲弊する米軍機や部隊。国防予算の削減。整備不良。新型機の開発を巡る膨大なコストと導入の遅れ。老朽化した機体を無理に先延ばして飛ばす-。そんな米軍を巡る事情が、訓練中の事故を招いているといえます。その悪循環が、子どもたちをはじめ市民の日常生活にも被害を及ぼしてしまう。なぜなら米軍機が人々の頭上を飛ばない場所はほとんどないから。それが沖縄の現状です。

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 座波幸代(ざは・ゆきよ)  政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。