神の島・久高島は〝肉なし正月〟だった!【沖縄たべものがたり】(vol.5)


神の島・久高島は〝肉なし正月〟だった!【沖縄たべものがたり】(vol.5)
この記事を書いた人 仲程 路恵

あけましておめでとうございます!

皆さん、どんなお正月をお過ごしですか?

沖縄へ移住したばかりの頃は、琉球王朝時代の伝統行事を再現した辺戸大川の「若水取り」に参加させてもらっていましたが、最近は忙しさにかまけて、健康祈願の御水をいただけていません。だからでしょうか、ちょっと体調がイマイチだなぁなんてこともあったりして…。あ、若水のせいにしていますが、単に運動不足ですね。というわけで今年こそは運動!がんばるぞ~!

若水取りの様子

豚文化の沖縄で〝肉なし正月〟?

さて、沖縄のお正月はよく“豚正月”と表現されます。

昔はお正月に豚を一頭つぶして、丁寧に保存して、1年間大事に食べていたそうですが、現代はオードブル正月?と言ってもいいかもしれません。共働きで忙しいからお正月料理を作る時間もない、そしてオードブルのごちそうをたっぷり食べる―。そんなお正月になっていますよね。

でも調べてビックリです! 驚くべきことに久高島はお正月の2日間はお肉を食べない“肉なし正月”なんだそうです。精進料理的なビーガンレストランをしている私としては、なぜお肉を食べないのか、その心を知りたくて、さっそく久高島へ聞き取り調査に行くことにしました。

〝神の島〟久高島からの眺め

お話を伺ったのは久高島在住の古波蔵節子さん。節子さんと息子の久さんはヒエや麦、高キビなど雑穀の生産者。その雑穀を私がブレンドして、ご飯に入れて炊くだけミックス「久高島五穀」という商品を浮島ガーデンで販売しています。 

ちょっと入れるだけでご飯が妙に美味しくなる「久高島五穀」

比嘉康雄氏の「神々の古層」。表紙のド真ん中にいらっしゃるのが古波蔵節子さん。右隣の福治洋子さんからもお話を伺いました。

節子さんは、かの有名な祭り「イザイホー」で、神行事のお役目を担う神女になった方でもあるんです。

久高島へ渡ったのはクリスマス・イブ。ちょうど今季最後のイラブーの燻製日ということで、節子さんはアツアツモクモクの燻製室を出たり入ったり、暑さで顔を真っ赤にして忙しそうに働いていました。島の女性は実によく働きます。体の質が違うというかデキが違うというか。とにかく強靭な体力で、とってもカッコイイ。憧れます♡

イラブーを夜中に捕まえるのも、節子さんと洋子さんのお役目。燻製するのも神様のお許しを得た人でなければできません。2017年の夏にNHKで放送されました!
イラブの燻製の様子

 

島の行事のことなら何でも知っている、節子さんと洋子さんから、久高島のお正月料理についてお話しを伺い、まとめてみましたよ。

祈りを大切にするからこそ

元旦はまず芋を拝んで作物の豊作を願う拝み「ンモーカシーヌフェー」からはじまります。蒸し器で蒸した芋を器にたくさん盛って、神様に捧げた後、みんなで食べたそう。なぜ芋なのかと言うと、お米が食べられなかったから、主食である芋を拝んで豊年を祈ったのだとか。「お米が普通に食べられるようになったのは昭和50年を過ぎてからかねぇ」と洋子さん。波照間に住む50代の友人も、お米がなくて芋ばかり食べていたから、芋はもう見たくもないし、絶対に食べないと言っていたのを思い出し、洋子さんに「芋はもう食べたくない?」と問いかけると、「いや、むしろ食べたい。懐かしい気持ちになるから、買ってでも食べるよ~」と意外な答えが。芋を食べると若かりし頃のキラキラした時代が思い出されて、美味しさと一緒に喜びも味わえるのかもしれませんね。

沖縄の在来紅芋 泊黒(トゥマイクルー)。一度絶滅して、ハワイから再び入ってきたものが、少しづつ生産されはじめています。

そしてお正月2日目は、漁の安全と大漁を祈って「ファティウクシ」が行われます。漁船に赤い紙を敷いて、その上にミカン、刺身、塩を備え、拝みが終わるとお下がりを持ち寄って、浜で飲み会になるそうです。

正月の2日間はお魚は食べても良いが、お肉は禁止!

この意味を問うと、「男はウシャクをするさ~。四つ足を食べたら穢れるから、ウシャクが終わるまでは食べないんだよ」とのこと。

1年間の健康を祈る「シャクウガミ」という重要な拝みが終わるまではお肉は食べないというのです。<豚肉を食べた人はウシャクの時に手が震える>という言い伝えもあるようで、シャクウガミが終わる3日の午前まではお肉を口にしなかったそうです。でも今は「めいめいの家でごちそうを食べてるよ~。でも外間殿では食べないよ~」と教えてくれました。

久高島の外間殿にて旧正月の様子(写真提供 桑村ヒロシ)ウシャクを受けた後は必ずカチャーシー。

穢れのない身体で神様からのウシャク=盃をいただく。裏を返せば、島の暮らしはそれだけ厳しかったのだろうと想像します。1年が無事に安全に過ごせるように、食べものに困らないようにと、お正月というハレの日にあえてハレのごちそうを食べないことで、祈りを通したかったのかもしれないですね。

「五穀伝来の島」の芋への思い

一般の方にもふるまわれる大根の和え物

そして元旦の日に芋を捧げて祈るというのも、島の生活の厳しさの表れのように思いました。五穀伝来の島とは名ばかりで、昔は食べるほどに五穀はなく、芋が主食だった。穀物と言えば、わずかに粟や麦、高キビはあったと思いますが、雑穀は精白調整して食べるまでに手間暇がとてもかかるため、ハレの日の食べもの、または神様に捧げるものであって、なかなか口にする機会はなかったと想像します。

八重山の島々でもお祭りの時に使う五穀のお飾りの中に芋を入れたりします。

このことからも芋は島の人々の命をつないできた大切な食べもの、穀物ではなくても、存在としては五穀の一つであることが分かります。

 

久高島のお正月は今でも旧正月。2018年の旧正月は2月16日ですね。

外間殿で行われるシャクウガミは一般の方も見ることができますよ。

 

嘉例なる精進おせち料理はいかが?

沖縄食材でつくる嘉例なる精進おせち料理

そして浮島ガーデンも元旦から精進おせち料理をランチタイムに出しています。

ありがたいお芋はきんとんにしました。他には黒あずき煮、車麩のラフテーもどき、ターンムはドゥルワカシーやソテツ味噌のいなむるちにも入れました。アマランサスの数の子風モーイ豆腐や波照間島の金ゴマで作ったゴマ豆腐、長命草のやんばるピーナッツ和えや高キビ粉を入れたサーターアンダギーなどなど、ぜんぶで13品と久高島五穀ごはんをご用意しました。

どうぞ無病息災、嘉例をつけてくださいね☆

若水取りの際に使われる五穀

今年も健康で稔りの多い1年になりますように。
世界が平和になりますように。

中曽根直子(なかそねなおこ) 穀菜食研究家/沖縄雑穀生産者組合 組合長

那覇に「浮島ガーデン」、2016年、京都に「浮島ガーデン京都」をオープン。沖縄の在来雑穀の復活と種の保存、生産拡大のため沖縄雑穀生産者組合を立ち上げる。農業イベントや料理教室、食の映画祭や加工食品のプロデュースなど様々な活動を通して、沖縄の長寿復活に全力投球中。