映画監督・仲村颯悟が4分間に込めた〝沖縄〟と 新たな挑戦


映画監督・仲村颯悟が4分間に込めた〝沖縄〟と 新たな挑戦
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2年ぶりの新作は初の〝アート系〟

「沖縄がこの先どうなるのか分からない。何が正しいのか道筋すら見えない。でも…忘れちゃいけないことがあると思うんです」

沖縄出身の映画監督で慶応大3年の仲村颯悟さん(21)が2年ぶりに、新しい作品を産み出した。タイトルは「The island’s will」。沖縄の風景や暮らしの情景、重苦しい出来事がフラッシュバックのように次々と映し出される4分間の映像は〝沖縄の今〟を閉じ込めたかのようにヒリヒリと心を揺さぶる。

自身としては初めての〝アート系〟に近い作風。仲間と一緒に撮影してきたこれまでと違い、「今回はほとんど一人でカメラを回した」。公開も初めてYouTubeのみに限定した。表現も発信も、新しいスタイルに挑んだのはなぜか―。

◇聞き手・佐藤ひろこ(琉球新報Style編集部)

初のアート系作品を制作しYouTubeでの公開を始めた仲村颯悟さん

「忘れたくないから」

中学2年だった2009年、応募したシナリオ「やぎの散歩」が沖縄映像コンペティションに選ばれ、〝中学生映画監督〟として注目を集めた。以来8年余、「やぎの冒険」「島の時間」など柔らかなまなざしで島の情景を描く映像作品を中心に、短編長編など30本以上を制作してきた。2016年には沖縄の基地問題に向き合う長編映画「人魚に会える日。」を大学生スタッフと共に自主制作し、沖縄の若者たちが抱えるとまどいや矛盾を表現し、新境地を開いた。

 

 Q.

「人魚に会える日。」と、その後の「ゆしぐとぅ」から2年。「人魚―」もそれまでの柔らかな作風と異なり、基地を巡る沖縄の難しい現状を突きつける作品でしたが、本作もまた、これまでとは違う作品だと感じました。何がきっかけで、どんな思いで撮影・制作したのですか?

 

 仲村

「伝えたい」という思いでつくった「人魚―」などと違って、今回は自分の中にある思いや感覚を一気に吐き出してカタチにした作品なんです。忘れちゃいけない大切なことだけど、自分自身も忘れてしまいそうなことを残しておきたくて…。

きっかけは2017年9月中旬、読谷村にある沖縄戦跡のチビチリガマが少年たちによって荒らされた事件でした。僕より若い世代の少年たちの行為に対して、自分の中にすごく引っかかるものがあった。沖縄戦についておじぃやおばぁから話を聴けるのは、僕ら20代が最後の世代だと分かりつつ、下の世代に継ぐ意識が僕にはなかったんじゃないかって。

沖縄は2017年も(基地や政治を巡って)いろんな出来事がありました。この先、どうなるのか分からないし、何が正しいのか道筋すら見えません。でも、沖縄戦のことも、基地のことも、僕らより分かっている世代の多くの人が「今の沖縄の現状は良くない」と思っている。沖縄って、忘れちゃいけないことがたくさんあるのに、いつの間にかみんな考えなくなっている気がします。

沖縄に向き合うことを、沖縄の人が忘れている気がするんです。

でも自分だって、今の「感覚」や「思い」を忘れてしまいそうな気がする。だからこそ、作品にしようというよりも「撮っておかなきゃ」と思ったんです。普段は大学がある関東にいますが、9月下旬に読谷村に住む叔母を訪ねる用事があり、チビチリガマにも行ってみました。そこで一気に頭に映像が浮かんできて「やっぱり何かしなきゃ」と思った。10月にまた沖縄に帰る予定があったので、沖縄の現場はその1日で撮影しました。
 

初めてづくしの挑戦

 Q.撮影や編集は、どんな風に進めたのですか?
 

 仲村

沖縄の場面は一人で撮影しました。撮影から録音まで一人でやったのは実は初めてです。シナリオを書いてみたものの、自分の表現したいものが何なのか自分でも分からず、人にどう伝えて良いのか分からなかったんですよ。だから、その答えを探しながら一人で撮影したかった。室内の場面は東京で撮影し、出演・協力してくれたのは全てシナリオに共感してくれた沖縄の友人たちです。完成したのは撮影から約3カ月後の2017年12月下旬。4分間の短編ですが編集には時間が掛かりました。
 

クランクアップの日に出演者の仲間と共に=2017年10月29日
 Q.今回はYouTubeのみの公開なのだそうですね。なぜウェブでの発信を選んだのですか?
 
 仲村

YouTubeなら世界中の人に観てもらえます。多くの人に観てもらいたいので、台詞の部分には英訳の字幕をつけました。もちろん短編なので映画館での上映には向かないという事情もありましたが、ネット上ならいつでもどこでも観てもらえます。
 

 Q.タイトルの「The island’s will」は、日本語ではどう訳したらいい?
 

 仲村

それが分からないんです(笑)。難しいからあえて英語にしました。Willは「意志」や「願い」など積極的な意味ですが、「last will」とすると「遺書」となり、悲観的に捉える言葉でもあります。islandも沖縄なのか、日本なのか…。観た人に解釈してもらえればと思います。
 

仲村颯悟さんの新作「The island’s will」のタイトルスクリーン

〝自分〟はどちらの立場か

作品の1シーン。無抵抗な少年を殴り続けた後、海を眺める学生服の少年
 Q.

作品の冒頭に出てくる幼い男の子が、干上がりそうなタマンを見つめている姿、そしてラストで、その男の子が立ち去る場面があります。学生服を着た少年が無抵抗な少年を殴り続ける場面にも、ぎくりとしました。ストーリーの概要を教えてください。
 

 仲村

冒頭と最後は「子どもの成長」と「その後」を表現しています。子どものころは不思議なものを見つけたら足を止めていたのに、いつしか見向きもしなくなり意識すら向けなくなってしまう―。成長した少年が無抵抗の友を殴り続ける場面は、自分以外の意見に耳を傾けようとせず、圧倒的な力で自分の主張を押しつけている姿を表現しました。殴っている少年も、殴られている少年も、「沖縄」なのかもしれません。

(※作品中の台詞より一部抜粋)

君が見ているその虚像は誰がつくったものか

君よ、嘆く前に他者への理解をやめたのはどちらの方か

君よ、勘違いした正義を振りかざす君よ

意味も分からない歌を口ずさむ君よ

馬鹿でくそったれな世の中に生まれた君よ

何かできることがあるのではないか

その空っぽの手のひらを握ってはくれないか

その空っぽな心に愛を与えてはくれないか

その引き裂かれた紙切れを 

紡いではくれまいか

どうか、そっと…

〝沖縄の今〟を

 Q.最後の「どうか、そっと…」という言葉が胸の奥に響きました。
 

 仲村

力を振りかざしていた少年がただ欲しかったのは「愛」だった。それが届かない場所で、必死にもがいていた。チビチリガマの事件の背景はまだよく分かりませんが、少年たちはきっとあんなに大きなことになると思っていなかったのではないかと思うんです。ただ誰かの愛が欲しくて、それが届かなかったのではないかと…。そんな思いを「どうか、そっと…」という言葉に込めました。
 

 Q.作品を通して伝えたいことはなんですか?

 仲村

自分が「忘れてはいけない」という思いを込めて作った作品です。それは自身が「沖縄に向き合い続けること」なんだと思います。僕が思っている〝沖縄の今〟を、何かしら感じ取ってもらえたらいいな、と思います。
 

仲村颯悟(なかむら・りゅうご) 映画監督/慶応大3年

1996年沖縄県生まれ。⼩学⽣の頃から映像制作を行う。長編デビュー作は13歳の時に監督した『やぎの冒険』(2010年)。 現在、慶應義塾⼤学に在学中。5年ぶりの長編映画『⼈魚に会える日。』(2016年)は完全自主制作で劇場公開し、話題を集めた。