誹謗中傷の加害者にならないためにも怒りを抑えてネットを使う。 モバプリの知っ得![37]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

昨年6月、神奈川県の東名高速道路で悲しい事故が発生しました。

交通マナーを注意されて怒った25歳の男性が、注意した男性の車を煽ったあげく、高速道路上で進路をふさぎ、停車させ、そこに大型車が追突し、2人が亡くなりました。 警察の捜査の結果、25歳の男性は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で10月になって逮捕。
容疑者は6月の事故直後のインタビューで、亡くなられた被害者が危険な運転をしたかのような回答をしており、報道を見て怒りを覚えた人も多かったと思います。

この事故を受け、「この人が容疑者の父親です」とされる情報がネット上に書き込まれ、広がりました。
北九州で会社を経営する男性の名前、会社名や電話番号、自宅住所などがサイトでまとめられ、容疑者へ怒りを覚えていた人たちが「お前が父親か!」と苦情の電話を入れたのです。いたずら電話の件数は100件以上におよび、男性や家族は脅迫をうける事態に発展しました。

しかし、この情報はいわゆる「デマ」で、北九州の男性は東名高速事故の容疑者とは全く関係ない人でした。

こまでは以前、この連載でも取り上げています。

「デマ」と「私刑」 加害者にならないために冷静な対応を モバプリの知っ得!

そして昨年12月22日に、福岡県警はネット上に嘘の書き込みをし、関係ない他人の名誉を傷つけたとして複数の関係者の家宅捜索をしたことを明らかにしています。

ネットは「何を書き込んでもいい」わけではなく、他人を傷つけたり、迷惑をかけると、警察がやってきて捜査をされ、逮捕されるということを肝に命じなければいけません。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

正義感からのデマを許してはいけない

ネットでの誹謗中傷を考えるときに絶対に避けては通れないのが、お笑い芸人「スマイリーキクチ」さんへの誹謗中傷事件です。

これは、1999年ごろからネット上に「スマイリーキクチは凶悪殺人事件の犯人グループだった」とデマを書き込まれ、信じた人たちからの誹謗中傷や、殺害予告を受けた事件です。

まだ社会的にもネットの誹謗中傷が注目されていなかった時期ということもあり、スマイリーキクチさんが被害を訴えているにも関わらず捜査は難航し、その間ずっと被害を受け続けることになるのです。

2009年に誹謗中傷を書き込んだ一部の人が検挙されていますが、2017年にも殺害予告があり、スマイリーキクチさんはテレビ番組への出演が中止となっています。

「人殺しは死ね」デマと闘った18年 スマイリーキクチ

東名高速の事件のデマと、スマイリーキクチさん中傷事件に、共通点を感じます。

無関係の人が、ある事件の犯人の仲間として、ネットで誹謗中傷され、脅迫され、安心して暮らせなくなる。

こうしたデマの被害にあうことは「対岸の火事」ではなく「明日は我が身」です。
ある日突然、自分自身や、家族や友人、パートナーなどがデマによって平和に安全に暮らせなくなる。それがどれだけ怖く辛いのか。

みんなが当事者意識を持って考えないといけません。

そして、同時に気をつけなければいけないのは、自分が加害者にならないようにすることです。

誰にだって正義感があり、「悪いことをしているやつは、許せない!」と思うことがあるはずです。

おそらく、スマイリーキクチさんを誹謗中傷した人も、東名高速事故で北九州の男性のデマを拡散した人も、「私は悪いことしている人を正している、良いことをしている」と罪の意識が全くない人も多かったと思います。

話のスケールこそ変わりますが、世界中の歴史を見ても「正義」を盾に、侵略・介入を繰り返して失敗・不幸になった事例がいっぱいあります。

「目的は手段を正当化しない」

正義のためなら、何を行なってもいいわけではない。
怒りがこみ上げるような出来事があっても、深呼吸して冷静になる。

こうした判断ができれば、今回の東名高速のデマも広がらなかったのかもしれません。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」1月14日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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