軍用地の相続ってどうするの? 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(11)


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 “沖縄の相続”の特徴の1つに、軍用地にまつわる問題があります。最近父親を亡くされたという金城さんが、尾辻克敏弁護士の事務所に相談にやってきました。

 金城さんの父親は広大な軍用地などの不動産を持っていたため、その分割をめぐってご兄弟とトラブルになっているようです。

 


 

金城さん

金城さん

先日、父が亡くなりました。母は父が亡くなる前に他界しています。

父は、宜野湾市の自宅(土地・建物、時価2000万円相当)を所有し、私は父と共に自宅に住んでいました。

父は、自宅の他に、沖縄市の賃貸アパート(時価3000万円)、宜野湾市内の軍用地(時価4000万円相当)、読谷村内の軍用地(時価3000万円相当)も所有していました。

私はトートーメーを継ぐため、自宅と宜野湾市の軍用地をもらいたいと考えているのですが、弟の次郎と三郎が反対して折り合いがつきません。父の遺産を兄弟3人でどのようにして分けたらいいですか?
 

軍用地が絡むと〝骨肉の争い〟になるケースも!

尾辻弁護士

尾辻弁護士

不動産の分割をめぐるトラブルのご相談ですが、軍用地という沖縄ならではの課題も絡んでいますね。
 

金城さん

金城さん

軍用地が絡むともめるケースが多いのですか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

軍用地は、年間借地料が毎年値上がりしていると言われています。

土地の価格の算定方法も、一般の土地とは異なります。

宅地などの土地の価格=坪単価×坪数
軍用地の価格=年間借地料×倍率
※倍率とは、軍用地の場所によって変わる係数のようなもの。例えば返還される可能性が低い地域は高く、返還の見通しがある地域は低くなる。

軍用地の中には、軍用地の価格が、年間借地料の40倍なんていうケースもあります。このように軍用地は高価な不動産なので、遺産分割に軍用地が絡むと、親族間で〝骨肉の争い〟になる場合もあります。遺産の総額が億単位となるケースや、解決に時間を要するケースも多いです。
 

金城さん

金城さん

噂には聞いていましたが、軍用地が絡むと大変なのですね。
 

不動産の分け方は4種類

尾辻弁護士

尾辻弁護士

金城さんのケースでは、軍用地の他に、自宅(土地・建物)もあるので、まず不動産の遺産分割の方法について説明します。不動産の遺産分割の方法には、1.現物分割 2.代償分割 3.換価分割 4.共有分割―の4種類があります。
 

金城さん

金城さん

4種類もあるのですね。難しいので、分かりやすく説明してください。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

種類の分割方法について、ひとまず金城さんのケースから離れて、相続人はA・Bさんの2人、遺産は自宅(土地・建物、合計時価1000万円相当)のみで説明しますね。

1.現物分割とは、例えば、Aさんが自宅の土地を、Bさんが自宅の建物をといったように、遺産を現実に分けて分割する方法です。

2.代償分割とは、例えば、Aさんが自宅の土地及び建物を取得する代償として、Bさんに500万円を現金などで支払うように、遺産を多く相続した相続人が、他の相続人に相続分に相応する代償金を支払う方法です。

3.換価分割とは、自宅の土地及び建物を1000万円で売却してA・Bさんが各500万円ずつ受け取るように、遺産を売却して、その代金を各相続人に分配する方法です。

4.共有分割、A・Bさんが自宅の土地及び建物を各1/2の持分ずつ共有するように、不動産の持分を法定相続分などの割合で決め、その割合で共有する方法です。
 

どの方法がいいの?

金城さん

金城さん

不動産を分ける場合は、どの方法がいいのですか?
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

まず、遺産分割協議や遺産分割調停では、相続人全員が合意するのであれば、どのように不動産を分割しても構いません。

詳しくは、【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(5)をご覧ください。

金城さんのケースでは、相続人3人が合意するのであれば、金城さんは自宅と宜野湾市の軍用地、次郎さんはアパート、三郎さんは読谷村の軍用地を取得するという分割でも構いません。金城さんが長男としてトートーメーを継ぐので、多く分け前にあずかるということも実際あるでしょう。

また、相続人3人が、すべての遺産を各1/3の持分ずつ共有することも構いません。

しかし、前者の分割方法では、金城さんのケースのように、次郎、三郎さんが取得する相続財産の多寡に不満を持ち、合意まで至らないこともあるでしょう。

一方、後者の分割方法では、遺産のすべてを共有名義にするのは問題の先送りにすぎません。分割後、相続人3人の関係が悪くなったり、相続人の誰かがお金が必要になった場合などに、自宅に居住する金城さんが望まないにもかかわらず、自宅の共有物分割請求をされる可能性があります。
 

実務では「現物→代償→換価→共有」の順に検討

尾辻弁護士

尾辻弁護士

実務レベルでは、不動産の分割方法については、まず現物分割を検討します。そして、現物分割が困難な場合に、代償分割を検討し、現物分割も代償分割も困難な場合に、換価分割を検討します。共有分割は、最後の手段となるといわれています。

また、遺産分割審判では、不動産の分割方法について、相続人の希望が概ね一致している場合は、上記の分割方法の順番に関わらず分割されることはありますが、相続人の間で意見の相違がある場合には、上記の順番で分割されることが多いようです。
 

金城さんのケースでは?

金城さん

金城さん

私のケースでは遺産をどのように分割したらよろしいですか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

金額に換算すると、【2000万円の自宅】+【3000万円のアパート】+【4000万円の宜野湾市の軍用地】+【3000万円の読谷村の軍用地】ですので、遺産の総額は1億2000万円となります。相続人3人が法定相続すると、それぞれの相続分は3分の1なので、4000万円ずつとなります。

金城さんは、自宅と宜野湾市の軍用地の取得を希望しています。そこで、金城さんが自宅及び宜野湾市の軍用地を取得し、相続分を超えた2000万円については、次郎、三郎さんにそれぞれ1000万円ずつを代償金として、金城さんの固有の財産から支払うことにより、金城さんは自宅と宜野湾市の軍用地を取得することができます。

次郎、三郎さんは、一郎さんからそれぞれ代償金1000万円を受け取るとともに、次郎さんは賃貸アパートを、三郎さんは読谷村の軍用地を相続するという内容で、相続人3人が合意できればよいでしょう。
 

金城さん

金城さん

代償分割をするとして、代償金の準備ができるか心配です。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

代償金を用意できないと、代償分割はできません。金城さんのように、将来的に代償分割を考えている方は、ご自身で代償金を積み立てておく必要があります。
 

― 執筆者プロフィール ―

弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)

中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。

相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。


~法律問題でお困りの際は、お一人で悩まず、私と共によりよい解決を目指しましょう!~

島袋法律事務所 弁護士 尾辻克敏
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(毎月第3水曜日掲載)