“リアル工場長”はやっぱりリアル!? 沖縄CMものがたり[8]瑞泉酒造


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 薄暗い部屋で若い女性がお酒のグラスを片手に「今何考えてた?」「いやらし〜」と親密な様子で話し掛ける。場面は一転して“リアル工場長”と名乗る作業服を着たおじさんが出現し「ははは」と笑っている。

 違うパターンでは「男って鈍感だよね〜」と女性が話すと、また工場長が出てきて何もしゃべらずぼーっとした表情でこちらを見つめる。このCMシュールだなー、一体あのおじさんは誰なんだろうか、と疑問に思う人もいるいだろう。

 意表を突いたCMを制作したのは、創業130年余りの歴史がある老舗酒造所の瑞泉酒造。就任5年目の佐久本学社長は古酒造りに力を注ぐ一方、形にとらわれない商品作りに挑戦してきた。

こんなおじさんで…

 CM企画段階では、女性がカクテルをたしなむ映像を予定していた。ところが制作ディレクターは「本物の工場長を最後に出した方が、インパクトがあっておもしろいんじゃないか」と提案してきた。

 「こんなおじさんでいいのか」と佐久本社長は疑問に思いつつ「若い人なりの考え方があるから」と要望を受け入れた。そんな企画当時の話をしていると、奥から見覚えのあるおじさんがやってきた。CMに出てくる仲栄真兼昌さん、泡盛製造の現場で指揮を執る本物の工場長だ。

NG連発で隠し撮り

 ディレクターから「(工場を背に)立ってたらいいさー」と言われた仲栄真さんは「突然言われたので、何が何だか分からなかった」と話す。

 不慣れな現場に仲栄真工場長は、表情が硬くなったりセリフをかんだりと、何度もNGを出した。「最後はどうやって笑えばいいか分からなくなったよ」と苦労を重ねた。実際に採用されたものの中には、談笑中の仲栄真工場長を隠し撮りし、素の笑顔を撮ったものもあった。制作者の技ありの一本だ。

パネルまで登場

泡盛ベースのリキュールをPRする(左から)佐久本学社長、仲栄真兼昌工場長=那覇市首里の瑞泉酒造

 CMは好評だった。仲栄真工場長へは多くの知人や友人から電話やメールが寄せられ、通りを歩いているだけでも「あ、リアル工場長だ」と、声を掛けられることも。泡盛醸造の工場見学には以前よりも女性の姿が多く見られるようになった。

 佐久本社長は「少しずつイメージが変わってきている」と実感する。本社にはリアル工場長のパネルも設置され、おすすめ商品などを紹介してくれる。新商品開発も続けており、どんどん新しいアイデアがあふれ出してくる。次はどんなアイデアが出るか楽しみだ。(随時掲載)

(2018年3月11日 琉球新報掲載)