着物の魅力を探ってみた。→お国柄の違いが見えた。 「てみた。」32


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最近、那覇市久茂地のビル街や首里城、波上宮かいわいを着物姿で闊歩する人を見掛けませんか? 彼女ら彼らの多くは県外、海外から来た観光客だ。成人式も大学の卒業式も着物に袖を通さずにきた記者。人々がこぞって着物姿で練り歩くわけを探ってみた。

観光客、ひっきりなし
 

今月2日の午後。那覇市の平和通りにある、スタジオを備えた貸衣装店「ちゅら美人」を、ちねん記者とあやや記者が訪れた。店内にずらりと並ぶ着物。着付けを行う部屋だけでも優に200着は超えるそう。「いっぱいあるとお客さまも選ぶのに困ってしまうから、他は保管しています」とは店主の前泊恵子さん(63)。

「ちゅら美人」の開店は10年前。夫婦の会話が始まりだった。当時、主婦だった恵子さんが、平和通りで商売をしていた夫に提案した。「買い物以外の観光があったらウケるんじゃないか」

夫はあまり乗り気でなかったが、恵子さんは開店に突っ走った。読みは当たった。口コミやネットで評判が広がり、じわりじわりと客が増えてきた。この日もアジアからの観光客がひっきりなしだった。

SNSで人気
 

一番にぎやかだったのは8人組の香港からの女性陣。沖縄で結婚式を挙げる新婦さんもいるという。介添人の1人ヘイゼル・ケンさんは「SNS映えするから和装は人気よ。この店もSNSで知ったわ。旅先の思い出づくりにいいしね」と人気の理由を教えてくれた。彼女らは好みに合う絵柄を選び、お店の人に髪を結い上げてもらい、紅を引くころにはすっかり「和装美人」に。袖の振り、内向きな足の運びなど、様になっていた。

from HONG KONG
 

香港から来た会社の同僚8人組。新婦さんを真ん中に「はいポーズ」。
この後は近くを散歩する予定とのこと=那覇市の平和通り

日本人に人気なのは琉装。観光客ならほぼ全ての人が琉装を選ぶ。外国人観光客では、和装をした経験がある人が琉装を選ぶという。息子・海ちゃんの1歳記念にお店を訪れた横浜市の奥本寛さん・智子さんは「琉装があるのは沖縄だけ。思い出を形に残しておきたくて」と話してくれた。

from YOKOHAMA
 

息子・海ちゃんの1歳記念で訪れた奥本さん親子。
海ちゃんのばちさばきも決まってる!=那覇市牧志の「ちゅら美人」

強風の中、練り歩き
 

次に訪れたのは久茂地にある「ちゅら桜」。レンタカーに乗って本部町の美ら海水族館に繰り出す人もいるが、那覇のビル街を通り、近くのデパートまで行くのが定番コースらしい。8日、台湾から訪れた張さんも、着物の青と黒の布地が強いビル風で翻る中、家族4人で練り歩いた。

「鼻緒がめり込んで歩きづらい」とこぼしつつも、派手な図柄を着こなし、ゆっくり堂々と歩くその姿は、まるで任侠(にんきょう)映画のスターのようだ。張さんは以前から家族一緒に和装をしたいと思っていたという。娘さんの手を引きながら「夢がかなった」と喜んでいた。

外国人は派手柄が好きなようだ。

from TAIWAN
 

家族4人で近くのデパートまでひと歩き。ビル風強く肌寒い中を、さっそうと歩いてました=那覇市久茂地

「ちゅら桜」店主の大嶺千恵子さん(49)が「日本人ならちゅうちょする柄を、外国の方は好んで着けます」と指摘するように、外国人が手にする着物は金色、縦じま、濃いピンクや青など、はっきりとした色と図柄ばかり。ハープを持った天使など、日本人なら着ないような柄に人気が集まるそうだ。同じ着物でも文化が違えば選ぶ物も違うということか。

記者も着てみた。  気分は国王様・王妃様?

 

観光客に評判の着物での街歩き。実際に着てみるとどういう感覚になるのだろうか。本紙経済部員のちねん記者、あやや記者も「ちゅら美人」で琉装を体験してみた。

生粋のうちなーんちゅの2人だが琉装は初体験。サイズ選びも勝手が分からず緊張したが、店員の明るい声で難なく衣装選びを終えた。下着からテキパキと着付けが進められていくが、腹回りに少し手こずっている様子だ。

ちねん記者、現在30歳。そろそろお腹が気になる年頃だ。「ちょっと出すぎですかね?」とおずおず尋ねてみると「むしろ足りないくらいですよ。琉装に限らず、着物は恰幅(かっぷく)がいいほうが似合います」と返してくれた。これは世のお父さん方には朗報ではないか。

着付けを終えて平和通りに出てみる。大きく股を開くのが難しく、階段を上り下りするのも一苦労だが、いったん通りに出れば段差はほとんどなく、思いのほか楽に移動ができる。

もの珍しいのか、通りを行き交う人の視線を集めているのを感じる。井戸端会議をしていた商店の女性たちも会話を止め、笑顔を向けてくれた。「写真を撮ってもいいですか」と声を掛けられ、トップアイドル気分だ。

時間にして約30分。心が落ち着いてくると見慣れた景色が新鮮に見えてきた。いつもは遠目に見るだけの桜に思わず触れて、めでたくなるのは、決して写真映えのためだけではない。着物でのまち歩きは、県民にとってもタイムトラベラー気分が味わえるプチ観光だった。

 

いつもはこっ恥ずかしいポーズも琉装だと自然とできます。注目を集めるのも快感に…=那覇市壺屋

(2018年3月19日 琉球新報掲載)