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安室奈美恵が人々を魅了し続ける理由 音楽ライターと沖縄の記者がアムロ愛を語り尽くす


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

9月16日に沖縄県出身の歌手、安室奈美恵さんが引退する。現在は引退コンサートツアー「namie amuro Final Tour 2018 〜Finally〜」の真っ只中だ。多くの人々が彼女の歌声に歴史を重ね、涙し、そして全力でパフォーマンスをするその姿に力をもらい会場を後にしていることだろう。

そんな中、デビュー以来のファンであり、現在、音楽ライターとして音楽情報サイト「ビルボードジャパン.com」などで活動する平賀哲雄さん(40)が、6月29日に那覇市内でトークイベント「安室奈美恵を語る会」を開催する。安室さん本人へのインタビュー経験もある平賀さんが思う、安室奈美恵の魅力とはー。

聞き手の記者も10代からの安室ファン。そんな2人が安室愛を語り合った。4月20日に公開した「安室愛が止まらない 6月に那覇で安室奈美恵を語る会」に続く、平賀さんへのインタビュー後半。

◇聞き手・仲井間郁江(琉球新報Style編集部)

呆然…そして合点

Q 昨年9月の引退発表の一報を知った時の気持ちは。

A 引退発表をテレビの報道で知り、瞬間、呆然としましたね。でも、よくよく振り返ってみると、その直前の沖縄・宜野湾市での25周年ライブで「完成された感」みたいなものを感じていました。沖縄での25周年ライブでは最後に「Hero」を歌い、客席もシンガロングで、一体となって歌っていました。

Heroは、元々は五輪の日本代表を応援するというイメージの曲だと思うけど、ファンの一部や僕とかは、あの曲が発表された時、歌詞を見てすぐ、「あ、これ、安室さん自身のことを歌っているな」って感じていた。
「君だけのためのヒーロー どんな日もそばにいるよ」っていう歌詞は、安室奈美恵がファンに向けたメッセージのようにも見えるが、逆の視点もある。安室ちゃんにとってのヒーローがみんなだ、という感じが僕はすごくしていた。

あの25周年のライブ会場でも、「君だけのためのヒーロー どんな日もそばにいるよ」と歌いながら、それにお客さんも「オーオーオー」って呼応して。あの瞬間「あ、なんか完成した」って感じたんです。
「NEVER END」もそう。20周年記念の時に沖縄で絶対歌おうって思っていただろうあの曲を(台風で中止になり)5年の時を経て実現しましたし。

ライブの構成自体が、グループ時代があって、小室さんの時代があって、今があってと、なんかもう最終回っぽかったんです。実際にお客さんとの間で起きた空気もそうだし、いろんなものが結実した感じがあって、(引退に)合点がいきました。
安室奈美恵って人が、どこかで必ず引退するとしたら、このタイミング以上のタイミングはないだろうなって。今、振り返ってみると、ですけどね。

音楽家なので、踊らないで歌い続けるとか、いかようにも続けていく道はある。ただ、安室奈美恵っていう存在、みんなが求めてくれた安室奈美恵っていうものを完成させるためには、あのタイミングで、この1年で引退するっていうのがベストだって判断したのだろうなって捉えました。寂しいですけどね。

Q 引退を1年前に「予告」することで、ファンは心の準備ができる。その一方で、ラスト1年間「どんなパフォーマンスをするのか」と注目され、皆の期待値とともにハードルが上がる。最高のものを見せる、という覚悟と自信がないとなかなかできないことではないかと思う。安室さんの優しさとプロフェッショナルぶりをあらためて感じました。

A 引退を1年前に発表したのは、本当にファンのことを思ってのことだと思う。この1年間を「最後の荒稼ぎ」と表現する人もいるけど、そういう感覚で人前に出てやろうという人だったら、あれだけのパフォーマンスはできないと思う。ステージ上のことだけでなく、ドームツアーをあれだけ長い間やることもそうだし、紅白に出ることや、ドキュメンタリー番組の取材に応じることも。今までの安室奈美恵からすれば、ずっとやってこなかったことを、今やっている。

〝定番〟覆すアスリート

Q 安室さんは日本の音楽界にとってどういう存在か。

A 僕は日本人が聞いて難しく感じる、カラオケで歌えないような音楽を「苦い」って表現しているのだけど、安室ちゃんは2000年代に入って、「SUITE CHIC」名で活動した辺りからR&B、レゲエなど、いわゆる海外のクラブミュージックやダンスミュージック、日本人が「苦い」と感じる分野の音楽を追求していた。それを数年間続けてもう一度「第2の全盛期」を迎えた。自分の信念を曲げずにもう一度頂点に立った。
そしてその結果、何が起きたか。「安室ちゃんのような音楽、洋楽指向の強い音楽を日本でもやって良いんだ」って、勇気をもらったアーティストがどれほどいたことか。安室ちゃんがいなければ出てこなかったであろうアーティストはたくさんいる。

Q 平賀さんは以前記事で「だから僕らは何度も彼女を好きになる」と書いていた。とても印象に残っている言葉だ。彼女が人々を魅了し続ける理由は。

A 僕は音楽ライターという仕事なので、安室ちゃんだけを追っかけているわけではない。いろんなアーティストを、その時々でスイッチを切り替えながら、取材対象者のことだけを考えて取材している。
その中で、安室ちゃんのツアーは年に1度くらいのペースで見るんだけど、見る度に「うわ〜、やっぱ好きだわ」って思う。必ず成長や進化の一途をたどっている。常に攻め続けていて、前へ前へというものが感じられる。

小室プロデュース時代の楽曲は、安室ちゃんのキャリアの中では一番売れている。でも、小室さんから離れて自分がセルフプロデュースするということをやった。小室時代の曲は封印するというツアーもした。そこでもいろいろなドラマがあった。

それまで1位の常連だった人がそうでなくなった。でも、安室ちゃんは、本当に今やりたい音楽を追求して、諦めずに続けた結果、7年、9年かけてシングルやアルバムがまた1位をとる「第2の全盛期」を生んだ。そしたら次は、2000年代の代表曲を全部封印して、2010年代の曲しか歌わないっていうツアーもした。

いわゆるトップスター、ポップスターと言われる人は、「定番」曲があって、誰もが求めるそれを提供し続ける。それはそれでかっこいいと思う。でも安室ちゃんは、「定番」の披露は、基本的にアニバーサリーイヤーのスペシャルライブでしかしない。5年に一度とか数年に一度というペース。そこに安室奈美恵の生きざまが出ている。

これまでの自分のスタイルや年齢、世の流れだとか、振り回されそうなところを振り回されずに自分のかっこいいところを追求し続ける。毎回ライブに行っても、前回より今回良くないなって感じたことは一度もない。毎回驚かされる。そういう意味でアスリートだとも思う。MC(演奏の合間の話)無しで歌い踊り続けるという意味だけでなく、姿勢、発想が、本当に日本代表というか、金メダルを取り続ける人の発想だと思う。
 

熱い歌詞と生きざま

Q 難しいと思いますが・・・おすすめを3曲選ぶとしたら。

A たくさんあるけど、CAN YOU CELEBRATE?(1997年)とDr.(2009年)とContrail(2013年)かな。
CAN YOU~は、「引退」が発表された今聞くと、発売当時とは歌詞の響き方が全然違う。発売当時はウエディングソングという認識だったが、今聞くと完全に安室奈美恵の人生のようにも聞こえる。25年をこの曲で締めくくっても何の違和感もないなというフレーズがたくさんある。

「遠かった怖かったでも 時に素晴らしい 夜もあった 笑顔もあった どうしようもない 風に吹かれて 生きている今 これでもまだ 悪くはないよね」

「間違いだらけの道順 なにかに逆らって走った 誰かが 教えてくれた」。
「想い出から ほんの少し 抜け出せずに たたずんでる 訳もなくて 涙あふれ 笑顔こぼれてる」このフレーズなんかは、特にラストライブをイメージして聴くと、もう・・・・(言葉に詰まる)。彼女の誰もが認める代表曲が、結果的に安室奈美恵の音楽人生が完成する時に安室奈美恵の歌として響くようになっていた。

Dr.はまた別の評価軸。イギリスのロックバンド「Queen(クイーン)」の代表的な歌に「ボヘミアン・ラプソディ」という曲がある。この曲は世界のエンターテイメント史に残る、トップ3に入るような曲。5、6曲を1曲に組み込こんだような組曲的で転調しまくっている。ロックやポップスのテンプレート(定型)があるとしたら、それを完全に度外視して作った曲だ。

それを日本人のアーティストで、ダンスミュージックでやってのけたのがDr.だと思う。「ボヘミアン〜」同様に転調しまくるし、あらゆる音楽要素が組み込まれていながらも、基本的にはダンスミュージックになっている。すごく画期的な作品。すごくドラマティックだし、僕は聞いていて一番テンションが上がる曲です。

3曲目はContrail。先ほどのCAN YOU~は、結果的に引退発表後に聞いたらそう聞こえるよね、っていう作品だけど、Contrailは、結果的にというよりは、安室ちゃんのそれまでの人生を歌っているように感じられる作品。
サビの始まりが「Life 私はそれを知っている」という歌詞で、後半には「こんな痛みなど こんな鎖など〜」って歌ってのける感じがある。

安室奈美恵って、実は熱い歌詞が多い。軽やかなポップスター感がそういうイメージをさせないところがあるが、結構熱い生きざまを歌う人。Contrailには、安室ちゃんが本来持っている、そういう自分の生き方みたいなところを思いっきり表現してる歌詞がある。その歌詞を歌う時にあふれ出るエモーション(感情)は、この曲がトップレベルだと思う。聞き手が勝手に想像して聞いているだけで、実際にこの歌詞に込められた真相は分からないけれど。でも、多くを語らなくとも痛み、鎖はあった人だと思う。何があろうと25年続けていく、前に進んでいくっていう、これまでの25年間の姿勢が集約、簡潔に表現されている曲だと思う。

ずっとそばに、これからも

Q もはや個人的な悩み相談のような質問ですが・・・ファンの多くは「引退日をしっかり見届けるぞ」という気持ちで今、自分自身を支えていると思うんです。ただ、実際に引退してもう二度と新曲が出ない、という現実に直面するといわゆる「アムロス」(喪失感)状態になってしまいそう。何を支えにすれば・・・。

A ロスは無理して乗り越えなくていい。でも安室ちゃんの歌の中に必ずあなたが前に進もうって思えるメッセージがいくらでもある。引退後も結局また、僕らは安室奈美恵に背中を押されて前に進もうってなるはず。今までもそうだったように。
「みんな、それを知っているはずじゃん」って僕はみんなに問いかけたい。

6月の那覇での「語る会」は急きょ決まったが、こういうイベントはいつ何時あっても良い。引退したからと言ってその音楽が消えるわけではないし、ジャンルやアーティストにこだわらずいろんな形があって良い。音楽を語り継いでいくことは文化的にも娯楽的にもすごく大事。安室奈美恵の歌を引退するまで聞いたことがなかったという世代にも伝えていくためにも。

「Can you~」だけでなく、引退後に聴いたらまた、これまでと違った響き方になっている曲があるかもしれない。10年後に聴いたらまた違うとか。自分の生き方次第で安室奈美恵の歌の響き方は全然変わってくると思うので、語り終えるってことはきっとない。語り終えることがないってことは、ずっとそばに居続けるってことだと思う。
(終)

イベント情報

「安室奈美恵を語る会」は6月29日(金)、那覇市のライブハウス「Output」で開催。午後7時開場、7時半開演。チケット(1500円)は定員枚数が売り切れたが、追加で若干枚を4月28日(土)午前10時からローソンチケットで販売する。

平賀哲雄(ひらが てつお) 日本の音楽ライター、編集者、司会者、インタビュアー。

1999年に音楽情報WEBサイト「hotexpress」を立ち上げ、2012年より「Billboard JAPAN.com」で活動。小室哲哉、中島美嘉、大塚愛、Do As Infinity、モーニング娘。、BiS、SuGなど様々なアーティストのイベント司会も担当。2005年には安室奈美恵にもインタビューした。(写真は安室さんのツアー「LIVE STYLE 2014」取材時。首にはツアータオル。)

インタビュー後記

社内で「安室愛」ひたすら語り歩いていたら、同僚が「語る会」の情報を教えてくれた。「まさに、今の私に必要なのはこれ」。名医に出会ったような気持になったというのは言い過ぎだろうか。引退発表以降、「安室ちゃんのことがどれだけ好きか」という思いを誰かに聞いてほしい、誰かと分かち合いたいと思っていたのは私だけではなかったのね、と妙な心強さのようなもの?を感じた。

多くのファンがそうであるように、平賀さんの言葉ひとつひとつにも安室愛があふれていた。インタビューは当初予定の1時間を大幅に超え、約2時間に及んだ。

沖縄にとって、安室奈美恵という存在は特別だ。多くの県民に自信、勇気、夢を与え、「私、沖縄出身です」と堂々と言えるようにしてくれたと思う。
今度は私たちが彼女に恩返しする番。「ありがとう」の気持ちを伝えたいという思いでいっぱいになったインタビューだった。(仲井間)

インタビュー(上)アムロ愛が止まらない 6月に那覇で「安室奈美恵を語る会」はこちらから
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聞き手

仲井間郁江(なかいま・いくえ)
2006年琉球新報社入社。編集局経済部、東京報道部、社会部、政治部などを経て、4月から経営戦略局で琉球新報Style編集などを担当。口を開けば「安室愛」を語る日々。好きな色は「金」。