教員志望から芸人に! 言葉で笑いを追求するリップサービスの野望とは


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〝お笑い界の総合格闘技〟といわれる「お笑いバイアスロン」4連覇を果たし、飛ぶ鳥を落とす勢いのお笑いコンビ・リップサービス。テレビやラジオにも引っ張りだこの人気の2人だ。ボケ担当の金城晋也さんとツッコミ担当の榎森耕助さんの出会いは大学時代。国語の先生を目指していた2人は言葉を武器に新たな笑いを模索している。お笑いへの思い、未来の沖縄への希望について聞いた。

榎森耕助さん

─お二人の子どもの頃の夢は何でしたか?

金城晋也(以下、金城) 特に芸人は目指していませんでした。クラスで目立つ人を陰で見ているおとなしい子でした。

榎森耕助(以下、榎森) 子どもの頃はクラスの面白い子たちのおもちゃにされてた感じ。夢はプロバスケットボール選手でしたが、無理やなと(笑)。それで教員免許を取ってバスケットの指導者になろうと沖縄に。

─どうして芸人に?

榎森 沖縄の大学で相方と知り合いました。お笑いをやれば女子にモテるだろうと(笑)。それで芸能事務所に入りましたが、好きな女の子に彼氏ができてモチベーションを失いました。でも相方を誘った手前、辞めたいと言えず。「とりあえず続けるか」みたいになったんです。

金城 国語教師を目指して大学に進学したので、最初はサークル気分。よく分からないまま事務所に入りました(笑)。

榎森 教育実習で、こんなしんどい仕事やってられるかー!って挫折した現実もあり、お笑いの方にふわ〜っと入っていきましたね(笑)。

金城 リップサービスというコンビ名は国語の先生になりたい2人なので「言葉で笑わせようぜ」という思いでつけたんです。

榎森 僕たちは台本作りに時間をかけるタイプ。読点の位置までこいつが指摘してくるんです。

金城 先生になれなかったので、台本だけでもきっちり。「て・に・を・は」をしっかり(笑)。

榎森 沖縄にはお笑いの大会があって、負けると悔しくてどんどん本気になった。月1回開かれる定期ライブのために新ネタを作っています。11年になりますが、もう大変!

金城 毎月苦しいですが、お客さまの笑いで嫌なことは忘れます(笑)。皆さんを楽しませたくてのめり込み、抜けられなくなりました。

榎森 笑いをとる一瞬の気持ち良さが中毒になりますね。だけど、大学ではノー就活で将来不安でしたよ。

金城 でも迷いはなかったです。ありがたいことに在学中からお仕事をいただけていたので、ここまで続けられた。

榎森 相手が辞めるって言うまで続けようという気持ちでしたし、お笑いをやっていくうちに先生になるという夢が小さくなった気がします。

吉本と地元団体 共に業界盛り上げる

金城晋也さん

─沖縄で活躍する芸人として、今の状況は?

榎森 お笑い業界が沖縄で認められるようになってきた実感があります。活動が広がったのは賞レースの影響でしょうね。

金城 先輩方の実績も大きいですよ! いろんなところで信頼を生んでいます。

榎森 吉本興業さんの沖縄進出も大きい。進出前は戦々恐々としていましたが、地元に根付いているFECやオリジンと一緒に盛り上げる雰囲気になったんです。個人的な現状としては満足していません。

金城 ネタができるのは芸人の最低ライン。テレビのレギュラー番組を持ちたいですし、インパクトを与える突破口を模索しています。

榎森 僕ら個性がないのでキャラクター作りが必要でしょうね(笑)。沖縄のお笑いを全国に発信するためにYoutubeチャンネル「ワラしがみ*」を作りました。他県の方がお笑いを見に来るようになったらいいな〜と思っているんです。

挑戦する気持ちがやりがいになる

─やりがいや支えになっていることは?

榎森 何か動きを起こせば、共感してくれる人がいると感じます。挑戦する気持ちがやりがいになっています。

金城 お客さまにウケて笑いが起きること。いい仕事だと実感しますね。お声かけをいただくことも支えになっています。

榎森 笑いを受けとった時のうれしさが原点です。

─沖縄への思いを教えてください。

榎森 自分というものをしっかり持っている人が多いというイメージですね。外国や内地の文化が入ってきても、ウチナーであり続ける。輪に入るのは時間かかるけど、入れてもらえたら大事にしてくれます。まだあまり入っていませんけど(笑)。

金城 お笑いやるなら、大阪がいいんじゃないってなるよね。

榎森 沖縄だと希少価値が高いんですよ(笑)。がんばって関西弁を残していますが、ウチナーグチが入って「でーじやないかい」とか「どないなってるばーやー」みたいに変な感じに仕上がっています(笑)。県民のおもちゃになりたい関西人みたいな。

金城 沖縄の人は地元が好きと言われることがありますが、僕はそうでもなかったんです。子どもの頃は沖縄ってかっこ悪いかもと、都会かぶれで距離を感じるタイプでした。

─沖縄お笑い界の100年後のイメージは?

榎森 沖縄の魅力といえば海・民謡・お笑い。「沖縄に住む芸人はいいよね」という100年後だったら、すてきですね。パレットくもじの前に、関西と沖縄のかけ橋として俺の銅像が立つといいな〜(笑)。

金城 アジアの人たちを笑わせているんじゃないかな。芸人志望のネパール人がすでにいるので、近い将来国境がなくなる。はたまたロボットが漫才しているかもしれません(笑)。

榎森 AIに仕事を取られる可能性あり!?

金城 お笑いは肌感覚の部分があるので大丈夫でしょう。AIを笑わせるのもいいし、仕事はロボット任せで空き時間はお笑い見に行きましょうって時代が来たら最高ですね。

榎森 中国人を笑わせるために中国語を勉強している後輩がいます。日本語の漫才がスベっているので、ウケてから中国語やれって言いたい(笑)。

年取っても舞台に立ち続けたい

─個人的な面ではどうでしょう?

榎森 キャッシュで乗用車買うのが目標です。あと琉球ゴールデンキングスのオーナーにもなりたい!(笑)もちろん、お笑いはずっと続けていきたいです。

金城 年取っても舞台に立てたらいいですね。センターマイクにたどり着くまで何分かかろうが2人で歩いて(笑)。

榎森 介護士の方に連れて行ってもらうのもいいね。

─100年後の沖縄はどうなっていると思いますか?

金城 世界有数の観光地でしょうね。そしてお笑いが観光のキーワードになり、事務所の専用劇場ができて連日満席になるのが理想です。お笑い・演劇・歌をパッケージにしてたくさんの方に見ていただきたい。毎日お客さんが変わるから、ネタは一つです(笑)。

榎森 要はネタを作りたくないってことか(笑)。それはそうと、毎日笑い声が聞きたいですね。100年後の後輩が「リップサービスさんのおかげです」と言ってくれたらいいね(笑)。

金城 100年後にそう言われるようにがんばります!

●リップサービス
石垣出身の金城晋也(きんじょう・しんや)さんと奈良出身の榎森耕助(えもり・こうすけ)さんが大学在学中に結成。学校の先生を目指していたという2人らしく、細部の言葉選びにまでこだわった緻密な台本づくりが特徴。テレビ出演やラジオのパーソナリティーを務めるほか、イベントのMCなどでも活躍する。お笑いコンテストにおける受賞歴も豊富で、沖縄テレビ「O-1グランプリ」決勝の常連。オリジン・コーポレーション所属。

*ワラしがみ
オリジン・ コーポレーションのお笑い芸人が企画から編集まで制作を行い、こだわりの沖縄県産お笑い番組を配信している。「ワラしがみ」で検索。

100年後に伝えたい夢がある―。琉球新報社は5月25日正午から、沖縄県那覇市泉崎に新本社ビルが落成したのを記念して、県内外で活躍する県出身アーティストやお笑い芸人に「100年後に残す“夢”」を語ってもらうラジオ公開放送を新本社ビルで行う。ラジオ沖縄の「ティーサージ・パラダイス」と、エフエム沖縄の「ゴールデンアワー」の人気2番組によるコラボ放送という初の試み。

出演は両番組の司会の真栄平仁さんと西向幸三さん、糸数美樹さんはもちろん、ゲストにかりゆし58の前川真悟さんと新屋行裕さん、リップサービスの金城晋也さんと榎森耕助さんのほか、スペシャルゲストとして女優の比嘉愛未さんも登場する。それぞれの100年後の未来を展望する。