「事件」はこうして作られる 拡散する前に確認したいこと モバプリの知っ得![56]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

5月13日に短文投稿サイト、ツイッターにて、長野県にあるとされる「うどんや 蛞蝓亭」が「国際信州学院大学の職員の皆さんに無断でキャンセルされました。キャンセル料を請求したら逆ギレされました」とした内容を投稿しました。この内容はすぐに拡散され、「国際信州学院大学の職員最低ですね」と非難が集まりました。

しかしながら、この「うどんや  蛞蝓亭」も「国際信州学院大学」も架空の存在で、ツイッターに投稿されたような無断キャンセル事件も存在していませんでした。
これは、ネットユーザーが悪ノリして作った「釣りネタ」と呼ばれるものでした。

この件を「被害者はいないから良かったね」と話を終わらせるのは、あまりにも短絡的です。
間違った情報が広がると、回り回って誰かを苦しめる可能性がありますし、今回は作り話でしたが、トラブル事案を片方の言い分「だけ」聞いて拡散させることも本来はかなり危険なことなのです。

今回の件をキッカケに色々なことを考えてみましょう。

 

HPやウィキペディア風のページまで作られた「国際信州学院大学」

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

改めて話を整理してみます。
5月13日、ツイッターにて「うどんや 蛞蝓亭」のアカウントの以下のような投稿がキッカケとなりました。

“無断キャンセルにあいました。

50人で貸切の予約で、料理を準備してお待ちしてましたが、予約時間過ぎても見えず、此方から電話するとキャンセルとの返事。

キャンセル料を請求したら、そんな説明は受けていないと逆ギレ。

国際信州学院大学の教職員の皆さん、二度と来ないでください

#拡散希望”

※現在はアカウント・投稿ともに見られなくなっています

この投稿には(どこからか転載したと思われる)大量に作られた料理の画像も添付されており、「料理がもったい無い」「お店の人が可哀想」と感じたことで、反射的にリツィート(転送)をした人も多いと思います。

そもそもは今年の1月、インターネット掲示板5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)にて、架空の大学を作ってみんなを釣ろう(騙そう)という悪ふざけから始まっています。
大学の名前を掲示板で決め、有志によってホームページが作られ、さらには在校生・卒業生とされる人のツイッターアカウントまで作る周到っぷりでした。そしてインターネットの百科事典・ウィキペディアに酷似したページまで作り、徹底的に「こうした大学がある」と思わせるように作っています。

一見、普通の大学と見分けがつかないホームページも、教員紹介のページを開くと「コサックダンス吉村」などと教授が紹介されており、そこでようやく「ふざけてやっている」と気がつくようになっています。

簡単に作られたものであれば、検索することで何となく創作物と分かるようなものが多いのですが、今回のように検索されることを前提に、色々と作り込まれていると見分けるのが途端に難しくなります。

残念ながらこうした釣りネタや、デマ・間違った情報を100%見極める方法は存在しません。
ひっからないようにするために、注意・警戒する気持ちを欠かさず、検索する癖をつけて「石橋を叩いて渡る」必要があるでしょう。
 

本当に被害者はいなかったのか?

さて、今回の炎上に登場する「うどんや」も「大学」も架空のものだったため、一見すると被害者はいないように感じます。

しかしながら、今回の事件を一度でも信じた人の中には「大学職員」の人たちへの何となくのイメージの低下、あるいは「信州」という地域に対する「トラブルの起こる町」という刷り込みが入る可能性があります。

こうした何気ない創作話が偏見を広げることはよくあります。
例えば昨年、沖縄県内でも「路上で麻酔薬を嗅がせて意識失わせ、臓器売買される犯罪が中国から来ています」というデマが拡散されました。
 

【関連記事】「路上で乾燥海産物を〜」 広がるデマ、広げてはいけない理由 モバプリの知っ得!

これも、信じないまでも「用心するに越したことないから…」という気持ちで拡散させた人がいたでしょう。
しかしながら、このデマには「中国から来た」という言葉が含まれています。こうした言説が広がると「中国って怖いよね」とした偏見が植え付けられ、最終的には「あいつらならやりかねない」と差別につながります。

現在、飲食店の無断キャンセルは社会問題になっています。
特に貸切レベルの人数になると、お店は大量の料理を用意し、他のお客さんの予約を断ることになるので、無断キャンセルが続くとお店を続けることができなくなるからです。

この無断キャンセルを無くすために、色々な提案が出ています。
飲食店側から「ドタキャンした人の電話番号をみんなで共有しよう!」という提案が出ると「プライバシーの侵害だ」と反論が出てくる、そうした攻防が続くすごくデリケートな問題です。

そんな中で、今回のような「無断キャンセル問題」のデマが広がることで、議論にブレーキがかかるわけです。

一見すると被害者がいないようなデマでも拡散されることでノイズとなり、必要な議論を邪魔することになるのです。
 

そもそも拡散しない

今回は架空の話でしたが、このような「トラブル」の報告はネット上にあふれています。
「拡散希望!この男がお金を持って逃げました」「この人は犯罪をおかしそうな悪い人です。気をつけてください」などとして顔写真とともに投稿され、広く拡散しているのを見かけます。

しかしながら、こうした「トラブル」は双方の言い分を聞かないとよく分からないことがほとんどです。
自分の都合のいいように一部分を隠して話している、あるいは嘘をついている場合もあるからです。
片方の言い分だけを拡散し、あとになって「真相は違っていました。本当は悪くない人を悪者として晒してしまいました」となっても、その間違った認識を完全に訂正することも、その人の名誉を回復することも、すごく難しいわけです。

今回の件はそもそも架空の話だったのですが、仮に事実だったとしても、拡散させることには慎重である必要があります。
 

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」5月27日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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