安室ファンの夢の翼、テイクオフ!/JTA、安室ジェット実現までの道のり


この記事を書いた人 仲程 路恵

日本トランスオーシャン航空(JTA、那覇市・丸川潔社長)が5月14日から、沖縄出身の歌手で9月に引退を表明している安室奈美恵さんの姿を描いた特別デザイン機「AMURO JET(安室ジェット)」を運航している。各地の空港では安室ジェットを一目見ようと展望デッキを訪れる人も。

安室ジェットは、JTA社内の安室ファンの社員が、安室さんの引退表明を受け発案。企画の中心メンバーである販売推進部の江口有希さん(31)、整備管理部の玉城李奈さん(29)の2人の〝アムラー社員〟に、実現までの道のりを聞いた。

きっかけは昨年の宜野湾での25周年ライブ

安室ジェットのアイデアは、昨年9月に宜野湾市で開かれた安室さんの25周年ライブに行った江口さん、玉城さんが、同ライブのポスターを目にしたことが始まりだ。25周年ライブのポスターは、安室さんが客室乗務員(CA)風の服装に身を包み、青空を背景にほほえんでいる。

このライブ当時はまだ安室さんの引退は発表されていなかったが、ポスターを見た2人は「この笑顔が、JTAの飛行機で一緒に飛んでくれたらな」と漠然と思ったという。25周年ライブのグッズには飛行機の形をしたキーホルダーもあり、2人は飛行機との縁を感じずにはいられなかった。

そのわずか数日後、日本中、そしてアジアにも衝撃が走った「引退表明」のニュース。江口さん、玉城さんの2人も、想像もしていなかったニュースに呆然とした。

しかし、このときから「JTAの翼に安室さんの笑顔をのせよう」との思いは一気に加速した。「沖縄の航空会社として、沖縄出身の安室さんにこれまでの感謝の思いを伝えたい、と仲間内での雑談から始まったが、皆賛同してくれ、チーム発足につながった」と江口さんは振り返る。2017年12月、20~30代の女性社員17人のメンバーで「プロジェクトA」が発足した。

ピンチ!公開前のネタバレ危機

当時の様子を語る(左から)玉城李奈さん、江口有希さん

関係各所との調整を経て、5月にお披露目、運航開始とスケジュールは決まった。しかし、デザイン変更やペイントのための機体確保などクリアすべき課題が続く。機体にシールを貼り、文字をペイントするためには機体を数日間、格納庫に停めておく必要がある。

機材管理業務を担う玉城さんは、運航スケジュールとにらめっこの日々が始まる。デザイン変更も入り、当初のスケジュールから作業がずれ込む事態も発生した。「毎日のように関係業者さんに電話をするなど、スケジュール管理が一番苦労した」と玉城さんは振り返る。

ゴールデンウィークも返上で作業に当たってくれた関係者の協力も得て、どうにかスケジュール内に作業を終えた。しかし、最終段階で、予期せぬピンチが訪れる。SNS上に機体の写真が投稿されたのだ。公開前のネタバレの危機だ。

安室ジェットの運航は、発表のその日までは極秘事項。ペイントなどの作業も屋外ではできないため、格納庫の中で扉を閉めて実施した。格納庫に出入りする他の業者も同プロジェクトに理解を示し、格納庫で作業する時は自主的にスマートフォンを回収するなど積極的に協力体制を敷いてくれた。

ただ、どうしても発表前に1度、機体を屋外に出す必要があった。機内用Wi-Fiのシステムの通信チェックのためだ。

システムチェックは機体公開日の前日。

安室さんの笑顔のシールを貼った部分に茶色のシートをかぶせて機体を格納庫の外に出した。通信チェックを終えたが、その後Twitter上に茶色のシートをまとったJTA機体の写真が「何??」とのコメントとともに投稿されていたのだ。展望デッキから一般の方が望遠カメラで捉えたものと思われる写真だった。

安室さんの顔などが描かれた部分は茶色のシートで覆っていたため幸い、安室ジェットと判明することはなかったが、玉城さんは「SNSを見た瞬間、冷や汗が止まらなかった」と話す。
ピンチをどうにか乗り越え、5月14日に無事、安室ジェットは運航を発表した。

青春重ね、働く女性・母として共感

プロジェクトのリーダーを務めた江口さんは、自身にとっての安室さんについて「唯一無二の憧れの存在。私も今、2歳の子どもを育てながら仕事をしているが、安室さんも母親をしながらステージに立ち続けた。ステージ上の安室さんの姿を見ると『私もがんばらなきゃ、強くならなきゃ』って思う。自分自身を奮い立たせてくれる存在だ」と話す。

玉城さんも「初めて買ったCD、初めて行ったライブが安室さん。私の青春そのもの」と笑顔を見せる。2人とも「安室ジェットを通して、安室さんにつながった気持ちになった。勝手に思っているだけですけどね」とはにかんだ。

ご本人が機内に!

安室ジェットの就航後、なんと、安室奈美恵さん本人もその機内に足を運んだ。座席にかけられたオリジナルヘッドレストカバーのそばで笑顔を見せる安室さんの写真は同社の公式HPやSNSでも発信された。

安室さん御本人登場

乗れなくても、写真だけでも

搭乗口横には安室さんのサイン

安室ジェットの発表後、各地の空港にその機体を見ようと日々多くの人が訪れている。安室ジェットの運航スケジュールは機材繰りの関係から、当日か翌日分までしか公表されていない。なかなか事前に安室ジェット指定でチケットを予約することは難しいが、JTAはできるだけ多くの人が写真だけでも撮れるようにと知恵を絞っている。

那覇空港の国内線ターミナルのちょうど中央部分、展望デッキの真ん中にあたる27番スポットに到着できるよう、可能な限り工夫しているという。日々の運航スケジュールにより変動するが、同社によると「那覇空港では1日に3~4回は見ることができるはず」と話す。

幸運にも安室ジェットに搭乗することが叶った人はぜひ、機体入口の横をチェックしてみてとも。なんと!安室さんのサインを描いたシールが貼られています。

沖縄は梅雨が明け、これから本格的な夏のシーズンに突入。空の青さが一層鮮やかになる季節。多くの安室ファンの思いを乗せた翼が今日も沖縄を離陸し、日本のどこかの空を飛んでいるのだろう。

安室ジェット機内では、搭乗者1人1枚限定でポストカードを贈呈しているほか、7月1日からは安室さんの歌や映像を流す特別プログラムを実施している。

また同社サイト上では、安室ジェットのロゴ入りTシャツや、同機体の130分の1の大きさのモデルプレーンの予約販売を7月1日から開始している。(詳細はこちら→https://amurojet.jta-okinawa.com/

ポストカード

~この記事を書いた人 ~

 仲井間郁江(なかいま・いくえ) 2006年琉球新報社入社。編集局経済部、東京報道部、社会部、政治部などを経て、4月から経営戦略局で琉球新報Style編集などを担当。口を開けば「安室愛」を語る日々。好きな色は「金」。