認知症でも遺言書って作れるの?【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(17)


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認知症への関心が高まっています。2025年には高齢者の5人に1人に当たる約700万人が認知症になるとの推計もあります。では、認知症になったら遺言書は作れないのでしょうか? “沖縄の相続問題”のエキスパート・尾辻克敏弁護士に教えてもらいました。

認知症でも遺言書を作れることもあるってホント?

遺言は、満15歳に達した人であれば誰にでもできます。ただ、遺言をするときに意思能力(遺言の内容及び遺言に基づく法的結果を弁識、判断する能力)があることが必要です。分かりやすく言うと、誰に何を相続させるのかを理解して判断する能力をもっていることが必要となります。遺言をするときに、遺言者に意思能力がないと、遺言は無効となります。

しかし、「認知症だから遺言をすることができない」とは必ずしも言えません。医学的な認知症の診断と意思能力の判断は異なります。認知症でも意思能力が残っている場合もあれば、一時的に意思能力を取り戻す場合があるからです。

例えば、知的障がいや精神障がいなどがある「成年被後見人」も、意思能力を回復している場合には、遺言をすることができます。その場合には医師2人以上が立ち会い、遺言者が遺言をするときに「事理弁識能力」を欠く状態になかったことを遺言書に付記して、署名捺印しなければなりません。

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遺言能力はどうやって判断するの?

遺言をするときに意思能力については

①    遺言者の精神上の障害の有無・程度
②    遺言の内容
③    遺言の動機や遺言に至る経緯

――などを総合的に判断することになります。

具体的には、の「遺言者の精神上の障害の有無・程度」については、遺言者が患っている病気の内容や程度、病状の変化などについて、診断書、診療録(カルテ)、主治医の話などをもとに判断することになります。

の「遺言の内容」については、内容が複雑か簡単かが重要な判断内容となります。

の「遺言の動機や遺言に至る経緯」については、遺言の内容がこれまでの経緯などから自然かどうかも重要な判断内容となります。

遺言が無効にしないために・・・

遺言書をせっかく作成しても、遺言者に意思能力がなかったと判断されると、遺言が無効になってしまいます。

そこで、遺言が無効とされないようにするためには

①    医師に立ち会いをお願いし、遺言作成時に意思能力があったことを診断書などに記載してもらうこと
②    ビデオカメラなどで遺言作成時の様子を撮影すること
③    ビデオカメラや日記などで遺言者の生活状態や会話の内容を記録すること
④    遺言の内容を簡単なものにとどめること
⑤    医師に長谷川式知能評価スケール(認知症の診断に使われる簡易知能検査)を実施してもらい、認知・判断能力があることを確認すること

――などをお勧めします。
 

遺言書が作成されている場合に、遺言能力に疑問をもった場合は?

遺言者が遺言を作成して亡くなった後、遺言者の相続人などが、遺言者に遺言をするときに意思能力があったか疑問を持ち、遺言者に意思能力はなかったので、遺言を無効と主張したい場合には、通常、まずは遺言無効確認の調停を申し立てることになります。調停で解決できない場合には、遺言無効確認請求訴訟(裁判)を提起することになります。調停や訴訟において、遺言者の意思能力に疑問をもつ人は、遺言者の診断書、診療録、MRI等の画像検査の結果、介護記録などを判断材料にして、遺言者に意思能力があったか否かを争うことになります。

― 執筆者プロフィール ―

弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)

中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。

相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。


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(毎月第3水曜日掲載)