琉球ガラスとサンゴが奏でる「海風風鈴」の涼やかな音色


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琉球ガラスで沖縄を表現
琉球ガラス工房 海風

読谷村「体験王国むら咲むら」内の海側にある「琉球ガラス工房 海風」(有限会社海風)。周囲には、さとうきび畑も広がる自然豊かな場所だ。ここで生み出された「海風風鈴」は、2013年に発表されると県内外から好評を得て、インターネット通販サイト「楽天」で売り上げ1位になるなど注目を浴びた。現在もなお人気は衰えず、工房を代表する作品の一つになっている。

風をうけ 奏でる夏の涼 海風風鈴   写真・村山 望

夏の風物詩の一つ、風鈴。その音を聞くだけで涼を感じ、癒やされる。さわやかな琉球ガラスと素朴なサンゴで作られた「海風風鈴」の音が聞きたくて、工房へ足を運んだ。

(左から)松田さん作「残波の夕日」、海風工場長の佐藤慎さん作「海想」、竹内祐貴さん作「GAJUMARU」

人間性を磨く

真剣なまなざしで作業する松田将吾さん。2009年沖縄県工芸士に認定され、13年と14年に沖展奨励賞受賞。有限会社海風 専務取締役

工房では、職人の松田将吾さん(41)が整形窯でグラスをやわらかくし、飲み口を整える作業をしていた。窯は1300度。作業場は40度を軽く超える中、一つ一つの作業を手際よく丁寧にこなしていた。

松田さんの代表作の一つ、「海風風鈴」は、以前に自身が手掛けたグラスのデザインを生かしたものだ。見た目にも涼しげな青を基調に、生まれ育った読谷村の海の色を琉球ガラスに落とし込んでいる。

「青、水色、緑…海の色は一つじゃない。天気によって変わり、違う雰囲気になる」   

松田さんが子どもの頃から慣れ親しみ、毎日見てきたからこそ分かる色の変化を表現した。

風鈴本体に触れて、音を鳴らすのは、工房前の砂浜で拾ったサンゴ。素朴な温もりをも感じさせる、いつまでも聞いていたい心地よい音色だ。

琉球ガラス工房で働き始めて26年目の松田さんは、15歳でこの道へ。もともとは友人に誘われたのがきっかけだった。しかし、いまよりはるかに厳しかった職人の世界にあって、その友人はすぐに辞めてしまう。

当時、定時制高校に通いながら働いていたという松田さん。くじけずに続けられた理由を聞いた。

「昔の職人さんは、仕事中は厳しいけど休憩時間になると『大丈夫か?』と飲み物を買ってきてくれたり、『一緒にご飯食べに行くか』と誘ってくれたりした。厳しい中にも垣間見える職人さんの人間性の優しさ、そして豊かさに触れたから、これまでやってこられたんだと思う。怒られてばかりだったら続かなかった」と振り返る。

現在、後進の指導をする中で「技術を磨く前に人間性を磨け」と伝えているという。瞬間で形作られるガラスに、その人の人間性が表れるからだ。長年、向き合ってきたガラスに対する松田さんの姿勢は、後輩たちの良いお手本になるだろう。

松田さんには、18歳の息子がいる。色彩に興味があるらしく、いつか一緒に仕事ができたらうれしいと父親の顔ものぞかせた。

ドラマの舞台にもなった趣のある工房海風
ガラスを溶かす溶解炉

作品に込める思い

工房海風の職人たち。営業の佐々木さん(右から2人目)は琉球ガラスを題材にしたエッセーで「おきなわ文学賞」県文化振興会理事長賞の受賞経験あり

営業の佐々木仁孝(ひろたか)さんによると、工房全体として、沖縄の風土や思想性、時間のドラマ性を取り入れた作品づくりを目指しているという。その背景には海外の偽物が出回っていることにある。

「このような現状の中で、これが自分たちの琉球ガラスだ! と打ち出していくには、作品で沖縄を表現し、発信していかないといけない。また、そうすることで作品を見てくれる人が、例えばちょっと飛躍するかもしれませんが『沖縄の基地問題って何だろう』と考えたり、『沖縄の時間はゆっくりなんだな』と感じてくれたりしたらいいなと思っています」と語った。

これからも「海風」らしい琉球ガラス作品を期待したい。

「Gala青い海」内にある同社の工房「Glass Art青い風」に併設されたショップ

(﨑山裕子)

琉球ガラス工房海風 (体験王国むら咲むら内)

読谷村高志保1020-1 
☎098-958-3824

(2018年8月16日付 週刊レキオ掲載)