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子どもに不便な世界 100cmの視界から―あまはいくまはい―(34)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

養護学校(現特別支援学校)に通っていた私は、小学校3年生の担任がとても厳しい人でした。物を落とすと「自分で拾えないのだから落としてはいけない」と言われ、1回落とすごとにカウントされ、10回落とすと1時間居残りになりました。気を張り詰めているのだけど、どうしても鉛筆や消しゴムを落としてしまう。悔しいし、悲しいし、怖かったです。

落としてしまう原因は、実は私の体に車いすと机が合っていなく、姿勢が悪くなっていたからです。鉛筆も、教科書も私の体の割合からすると大きく、重く、使いにくかったのです。消しゴムで字を消すことも、私にとっては力がいる作業でした。しかしそれが当たり前で、自分が悪いと思っていました。

幸いにも翌年の担任に理解があり、授業中は車いすから降りていすに座ることにしました。すると姿勢が安定し、物を落とす回数も減り、落としても自分で取れるので、うれしかったです。

子どもと同じ大きさの私。使いやすい物も子どもサイズです

子どもが失敗をすると、大人はとっさに怒ってしまうことがあります。「集中していないから間違える」「話を聞かないから失敗する」と子どもを叱りがちです。しかしその環境が本人に合っていないことも原因かもしれません。少しの変更や配慮で失敗が減り、本人もまわりもストレスが減り、勉強や生活がしやすくなるかもしれません。

私は今でも食事中、よく食べ物をこぼしてしまうのですが、子ども用のお箸やいすを使ってみると、食べやすさを実感!身長100cmの私には、今まで使っていた物が自分に合っていなかったのだと、初めて気づきました。また机やキッチン台は、私の肩と同じ高さになることが多く、高すぎます。台全体が見えにくいので、物を取ろうとしたら他の物に手がぶつかって落としてしまったり、包丁で野菜を切るときは力が入りにくかったりします。失敗しないように、時間がかからないようにと集中すると、どっと疲れてしまいます。

私たちのまわりにある物や制度、常識といわれる考え方は、子どものためというよりも、大人中心に作られていることがよくあります。子どもをとりまく世界はまるで障害物競走のよう。楽しいけれども不便がたくさん!それを心にとどめ、子どものよき理解者でいたいです。

ただ親となると、わが子にイライラしてしまい「またこぼしたの?ふざけるからでしょ」と怒ってしまうのですが。子どもの目線、考え方、気持ちを大切にできる大人でいたいです。だって小さいときの私に、それが必要だったのですから。

(次回は30日に掲載します)

伊是名夏子

いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。

 

(2018 年9月16日 琉球新報掲載)