リゾート地ハワイと沖縄、日本人が知らない共通点と違い◇アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(16)

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光とともに色彩を変える緑のマクア渓谷。今は陸軍の演習場の中にある

緑色の美しいグラデーションが広がる渓谷。薄い雲が山頂をただよい、雲の合間から日差しが差し込むと、山は神々しく、新しい色合いに輝きます。

米ハワイ州オアフ島。ホノルルから、北西に約60キロ離れた海岸沿いに広がるのがマクア渓谷です。マクアとは、ハワイの言葉で「親」の意味。ワイキキなどの観光地の雰囲気とは異なり、静かにたたずむこの場所はハワイの民族誕生の地といわれる聖域。ハワイ先住民族の歴史を知る貴重な文化財や希少な動植物が残っています。

しかし、周囲はフェンスで囲まれ「米陸軍施設 進入厳禁」「危険」の看板が立ちはだかります。現在、この地は4190エーカー(約17平方キロ)に広がる米陸軍マクア演習場として使用されているのです。



独立国家から、アメリカの州に


「陸軍施設 進入禁止」などと書かれた看板とフェンスに囲まれたマクア演習場

ハワイはカメハメハ王朝が統治した王国で諸外国とも外交関係を持つ独立国家でしたが、砂糖業が盛んになると欧米からの白人入植者が増加し、1893年、入植者らによるクーデターがハワイ王国を転覆させます。米西戦争を機に1898年、アメリカに併合され、1959年、50番目の州になりました。

米軍は1920年代から先住民族の聖地だったマクア渓谷を演習場として使い始めました。そして、1941年12月7日(現地時間)の日本軍による真珠湾攻撃の後、ハワイの軍事拠点化が進みます。米軍はマクア渓谷やその周辺の土地を住民から接収し、兵士の水陸両用上陸訓練や砲撃訓練の場所としました。第2次世界大戦後も演習場として使用し続け、特に80~90年代は陸軍と海兵隊が歩兵部隊や航空部隊などと連動した実弾射撃訓練を行いました。美しかった山肌は砲撃の跡であらわになり、山火事も度々起こりました。


市民の訴えで米軍の訓練が中止に

そんなマクア渓谷で、2004年9月から実弾射撃訓練は中止されています。きっかけは、市民らが陸軍に対して起こした訴訟でした。

1998年、ハワイ先住民族の権利を訴える団体マラマ・マクアと米環境法律事務所アースジャスティスは、50年以上にわたる軍の訓練は、50種類以上の絶滅危惧種などに与える環境への影響調査を行っておらず、国家環境政策法(NEPA)に違反していると訴えました。

裁判所は軍の不備を認め、環境影響調査が完了するまで、同地での実弾射撃訓練の停止を軍に命じました。その間の和解策の一つとして、2001年の米中枢同時テロをきっかけに軍が2004年までの期間限定で実弾射撃訓練を行う代わりに、マラマ・マクアのメンバーらは月2回、施設内に入ることのできる「カルチュラル・アクセス(Cultural access)」を行使できるようになったのです。


マララ・マクアのビンセント・カナイ・ドッジさん(左端)らが今もカルチュラル・アクセスで渓谷に足を踏み入れ、祈りをささげる

一時は無残な姿だった渓谷はその後、実弾射撃訓練の中止で緑を取り戻しました。ハワイ陸軍のデニス・ドレイク広報官は「現在は通信訓練など、火薬や爆薬を使わず、環境への影響が小さい訓練のみを行っている」と説明します。

訓練では、希少な動植物や文化財のある場所には、立ち入らないよう目印を立てて訓練し、マクア渓谷の絶滅危惧種をはじめ、貴重な動植物保護に取り組んでいると胸を張ります。



自分たちの言葉、歴史、文化を知る


2017年11月末、カルチュラル・アクセスの日に、マラマ・マクアのビンセント・カナイ・ドッジさんらと共に、マクア演習場に入ることができました。この日は、ハワイの文化教育に力を入れるチャータースクール、カマイレ・アカデミーの10代の生徒たち40人も初めて参加。ビンセントさんらの案内で、生徒たちは自分たちのルーツ、歴史、文化を学ぶ時間を過ごします。


ネーティブ・ハワイアンの言葉や文化教育に力を入れるチャータースクールの生徒たち。なんだか沖縄の中高生とも似ている


「ハワイアンは豊かな海の恵みを受けてきたが、渓谷での実弾射撃訓練で、汚染物質は海にも流れ出しました。ハワイの言葉で『大地』『母なる地球』のことを『アイナ』と言う。アイナは『食を恵む場所』という意味も込められている」

「僕たちの地域には軍の関係者も多い。でも、この渓谷はもう何十年間もこうやって軍に使われている。もう犠牲にさせなくてもいい」 

「君たちの家族や親族にも軍の関係者は多いだろう。私の父も退役軍人だ。だが、この渓谷は戦争が終わっても何十年も基地として使われ続けている。『Enough Is Enough(もうたくさんだ)』。軍はこの土地を回復させ、ハワイの人々に返さないといけない」

ビンセントさんの言葉に、まっすぐなまなざしで耳を傾ける生徒たち。風に揺れる黒髪、漆黒の瞳、褐色の肌。沖縄の子どもたちを思い出し、なぜか涙が出そうになりました。施設内にある遺跡を囲み、聖域への感謝を伝える儀式を執り行う中、ハワイアンの歌が歌われました。サトウキビを杖のように持ち、石積みに水をかける姿。力強く、厳かな歌声。渓谷から神様が見守っているような気持ちにも、まるで沖縄のウガン(御願)を見ているような気持ちにもなりました。


聖域に入る儀式として、石積みを前にハワイの言葉で歌を歌う

陸軍の担当者から、渓谷内に埋まる不発弾の危険性や、渓谷内にある遺跡と軍による文化財調査の説明を受けます。そして、たどり着いた小さな広場。生徒たちは木陰に腰掛け、公立学校の教科書の「アメリカの歴史」には描かれていない、ハワイアンから見た「ハワイの歴史」を学びました。講師は「これがあなたたちの歴史であり、誇るべきもの」と語り掛けます。

生徒の1人、マクイ・ヘイリーさん(15)は「ハワイアンの文化がどれだけ素晴らしく、そして今まで私たちがどれだけそこに気付いていなかったか、ということを考えさせられた。なぜハワイにこんな歴史があり、そして今、何が起こっているのかを、もっと意識をすべきだと思った。なぜなら、それは私たちの未来につながることだから」と感想を教えてくれました。


広大な敷地を歩き、ハワイの歴史を学んだ生徒たち


まるで研究施設 考古学、文化人類学の専門家がずらり


陽気な陸軍の広報官、デニスさんは丁寧にマクア渓谷での軍の取り組みを教えてくれました。「軍の最大の優先事項は、いつでも戦える状態であること、レディネス(即応性)だ。 いつでもベストな装備と、ベストな訓練を受けて、厳しい状況に対応しなければならない。消防士や警察官と同じだ」

だからこそ、必要な訓練を可能にするために、地域住民との関係は非常に重要だと強調するデニスさん。「訓練地域を制限したり、文化財や自然資源を守ったりするために、われわれは何百万ドルもハワイに投入している。コミュニティーとの関係や透明性を大事にしている。そのためにも、住民たちと時間をかけて前向きな対話をしてきたし、軍の活動についての情報を共有している。われわれに秘密はない」

陸軍の施設・基地がある地域では、軍の高官と地域のリーダーたちとの評議会も構成しています。軍側からは、訓練の計画やそれに伴う騒音や飛来予定の航空機などの情報を提供、地域側からは住民らの懸念や要望などを伝え合います。学校や地域行事への軍のボランティア参加も盛んとのこと。


オープンカーで、マクア演習場まで案内してくれた陸軍広報官のデニスさん

デニスさんがぜひ見せたいと、数日後にスコフィールド・バラックス基地内の文化財・自然資源プログラムの施設に案内してくれました。ハワイの陸軍駐屯地は、軍の戦略目標を達成するために、自然環境やインフラ、施設、地域との関係などのサステイナビリティ(持続可能性)を掲げ、各種プログラムに取り組んでいるのです。

文化財保護プログラムのオフィスには、考古学や文化人類学の専門職員らがずらり。まるで研究施設のように、発掘された先史時代の石器や釣り具などが保存されています。陸軍が文化財保護や研究にしっかり人と予算をかけている、ということは同時に、これだけの遺跡、遺物の上に、軍事基地が造られ、占拠している、ということでもあります。ハワイ米陸軍の司令官、ステファン・ドーソン大佐も直々に現れ、いかに陸軍がハワイの自然・文化財保護に努め、州政府や学校、地域住民らと連携しているかを熱心に説明しました。


陸軍の文化財保護プログラムの一環で発掘された先史時代の石器や釣り具など

ハワイ米陸軍司令官のドーソン大佐と、文化財保護プログラムのスタッフら


マクアの自然保護に400万ドル!


続いて、自然資源保護プログラムの施設に移動。ビニールハウスには、青々とした草木が茂っています。絶滅危惧種の動植物の保護、生育などに取り組み、こちらもまるで研究機関のよう。マクア演習場には、少なくとも絶滅危惧種が44種生息し、陸軍はマクアだけでも年間約400万ドル(約4.4億円)をかけてその保護に取り組んでいます。生物学者のポール・スミスさんは「ハワイは非常に独自の自然があり、陸軍の自然保護プログラムでも最も高額な予算を自然保護にかけている。われわれは軍の訓練を支えるため、軍の施設や活動、訓練が絶滅危惧種にダメージを与えないよう、影響を減らす活動に取り組んでいる」と話します。

射撃訓練などで火災を起こさないこと、絶滅危惧種を保護することが重要な活動で、例えば、訓練場間の武器や車両などの移動の際に外来種などを持ち込まないよう、きちんと洗浄するなど、日頃の予防策も徹底しているそうです。ビニールハウスは万が一、演習場内で植物にダメージを与えてしまった場合の「保険」として、野生の植物の一部を移植、丁寧に管理しながら育てています。建物の中には、大きな冷凍冷蔵庫があり、種がぎっしり。こちらも絶滅の危険がある植物を絶やさないように、種子を適切な温度で保管しているといいます。


ビニールハウスでの栽培や種子の保存など、絶滅危惧種の保護を説明するポールさん

さまざまな設備を使って、種子の発芽状況などを研究中


さて、沖縄では…

実は、陸軍のマクア演習場のほかに、オアフ島東部のカイルア湾、カネオヘ湾の間にあるハワイ海兵隊基地(以前の名称は「カネオヘ基地」)にも取材を申し込みましたが、担当者から日程が合わないことを理由に見学はできず、メールだけのやりとりになりました。そのことをデニスさんに話すと「海兵隊と陸軍は文化が違うからね。陸軍は隠すことはないし、透明性を大事にしているよ」とジョークを交えながら笑っていました。

その海兵隊も、陸軍と同様、ハワイの各地域との関係を重要視しています。ハワイ基地のホームページには「騒音の懸念」といった項目があり、住民らが軍に対し、米軍機の騒音への苦情を直接訴える仕組みがあります。ホームページには、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイをはじめ、CH53ヘリなど、各機体の名称と写真を掲載し、日時やどんな騒音が聞こえたかなどを詳しく書き込め、基地の担当窓口に直接電話できるホットラインもあるのです。


ハワイ海兵隊基地のホームページ。飛来する米軍機の形状を確認でき、騒音に対する苦情をウェブ上で提出できる

各地区の学校や商工会の代表、退役軍人らと、基地の司令官らで構成する民間軍事評議会は約30年前からあり、毎月、意見交換するほか、騒音の悪化が懸念される訓練や航空機の飛来がある場合は、会合などを通して、事前に地域住民に伝えるそうです。

ハワイと沖縄。もともとは独立国だったこの2つの場所がたどった歴史は似ています。アメリカ統治以来、土地や言葉を奪われて、アメリカへの同化政策が進められたハワイ。琉球王国として栄えたものの、1609年の鹿児島の大名・島津家(薩摩藩)によって江戸幕府に武力併合され、1879年の「琉球処分」で日本の1県になった沖縄。ハワイも沖縄も現在、多くの観光客が訪れるリゾート地である一方、米軍基地が大きく占めるという姿もそっくりです。

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https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-716269.html

ただ、米軍の地域住民に対する姿勢や環境保全の取り組みは大きく違います。沖縄では、米軍の訓練や米軍機の騒音について、地域住民が直接確認したり、苦情を伝えたりする仕組みはありません。訓練情報も市町村には直前にしか知らされません。知らされていないこともたくさんあります。

ジュゴンをはじめ、絶滅危惧種262種を含む5300以上の海洋生物の生息が確認されている名護市辺野古の海を埋め立てて、日米両政府は海兵隊普天間飛行場の代替施設として新しい基地を造ろうとしています。米空軍嘉手納基地周辺や普天間飛行場周辺では、発がん性などのリスクが指摘される有機フッ素化合物PFOS・PFOAが高濃度で検出されています。基地跡地のサッカー場の舗装工事中に、地中からダイオキシン類などの有害物質を含むドラム缶が大量に発見されたこともありました。米軍基地から派生する環境汚染や自然破壊、事故や騒音など、人々の生活の質(QOL)や安全を脅かすことは枚挙に限りがありません。


普天間飛行場の移設先として、日米両政府が新基地建設の工事を進める米軍キャンプ・シュワブ沿岸=名護市辺野古

米国内の州であるハワイと、日本国内の県である沖縄という大きな違いがあるなら、なぜ米軍は自分たちの国では守っているルールや取り組みを、日本では守らなくてもいいのでしょうか?なぜ、日本は米軍にルールを守らせることができないのでしょうか。

「『Enough Is Enough(もうたくさんだ)』。軍はこの土地を回復させ、ハワイの人々に返さないといけない」。
「なぜハワイにこんな歴史があり、そして今、何が起こっているのかを、もっと意識をすべきだと思った。なぜなら、それは私たちの未来につながることだから」。

マクア渓谷で聞いた言葉が頭をぐるぐる回りながら、ハワイと沖縄、景色や子どもたちの顔が重なるのです。



 座波幸代(ざは・ゆきよ)  政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。




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