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車いすで渋谷デート♡恋のお熱とリアル熱 100cmの視界から―あまはいくまはい―(41)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

インフルエンザもはやり、高熱に苦しんだ人も多いのではないでしょうか? 同じ熱といっても、バレンタインが近づいているので、恋のお熱の話をご紹介します。

こうやって2人で話す時間、いまはほとんどないです(笑)

沖縄から上京して数カ月、大学1年生の秋のことでした。当時思いを寄せていた彼と渋谷デートすることに! 彼に車いすを支えてもらいながら、陸橋の急なスロープを上り、ランチを食べ、ブラブラ遊びました。人ごみをかき分けて進んでいくのも、ドキドキ。何をするにもちょっぴり緊張していました。

夕方、自宅の最寄り駅まで帰ってきたのだけど、帰るには早いね、と夕飯も一緒にすることに。彼と渋谷に行ったことに舞い上がっていたのか、緊張しすぎて疲れたのか、頭がぼーっとして、旬の魚定食もほとんど食べられない私。レストランのテレビではベルリンマラソン実況中継で、高橋尚子選手が日本女子マラソン初めての世界記録を更新。盛り上がる彼と、ふらふらする私。会話にも集中できず、テレビのアナウンサーの興奮した声だけが耳に入ります。デートってこんなにフワフワするものだったっけ? と思いつつ、終了。

家についてもどこかおかしく、熱を測ってみると、なんと38・5度。彼へお熱なのではなく、リアルな熱でした。肌寒くなり、人恋しくなる初めての季節、沖縄にはない秋の季節に、心も体も疲れてしまったのでしょう。あれから15年以上たった今でも、高橋尚子、女子マラソン、と聞くと、甘酸っぱい思い出がよみがえります。

車いすだと、デートをするにも手がつなげなかったり、おしゃれなカフェに階段があって入れなかったり、映画館で見たい席に座れなかったりします。制限されるので、相手に嫌われないかと心配になることも。でも不安も伝えられて、困難なことを冒険のように楽しんでくれる人だと、2人にしかない特別な時間になること間違いないし! ちなみに私の夫は、私が車いすユーザーなのを意識していないようで、全く気が利かず、私としてはイライラすることもあるのですが。

やりたいことを何でも試してみる私は、恋愛でも常に積極的でした。偶然を狙って下校時間を彼に合わせてみたり、デートの約束をしたらお弁当をちゃっかり作っていったり。好きアピールがあからさまな私は、時に男性たちには重かったことでしょう。でも相手が引いてしまったら、別の方法を試してみるか、次の人を探せばいいだけのこと。楽しさだけでなく、せつなさ、嫉妬、悲しみ、いろいろ味わえる恋が私は大好きです。

(次回は来月19日掲載)

伊是名夏子

いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。

 

(2019年1月29日 琉球新報掲載)