ポーク缶、「の」まんじゅう、三枚肉…こんな紅型小物がほしかった


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自分らしく、沖縄らしい作品作り
「comomoの樹」  紅型作家 comomoさん

国道58号のマーク、ポーク缶、石敢當、三枚肉、のまんじゅう…。いずれも沖縄を象徴する身近な事物だが、これらが紅型の柄として採用されたことはあまりないだろう。新進の紅型作家comomo(こもも)さんは、自由な発想でユニークな紅型のモチーフをデザインし、布製のブローチに仕立てている。自身のブランド「comomoの樹」を立ち上げたばかり、今春には久米島での店舗開設を目指すcomomoさんに話を聞いた。

撮影・村山望
昨年10月の沖縄の産業まつりでの展示風景

今までにない、ユニークな発想の紅型小物︱。昨年10月に開催された第42回沖縄の産業まつりの会場で、comomoさんが手がけた紅型ブローチを見た時、そう思った。

まず、モチーフが面白い。ゴーヤー、すくがらす豆腐、サングヮー、コーレーグース…。どれも県民の生活に欠かせない身近なものであるが、これらを紅型のモチーフとしてデザインし、安全ピンで衣服や帽子などに留められる布製のブローチに仕立て上げるという発想は、おそらく誰も思いつかなかったものだ。

モチーフの種類は、現在34種類。すべて自力でデザインを起こし、型紙を作り上げたという紅型のモチーフは、全体的に丸みを帯びユーモラスだ。色を重ね濃淡を出す「隈取」という紅型の染色テクニックとあいまって、独特な温かみのある雰囲気を醸し出す。見ているだけで、なんだか楽しい気分になってしまう不思議な魅力を持ったブローチだ。

染色はもちろん、布地のカットや縫製まですべて手作業。制作を手がける紅型作家のcomomoさんは、「全工程を、1人で担当しています」とほほ笑む。現在のところ、1カ月に約60個ほどのペースでコツコツと作り上げているという。

単身来沖、紅型に挑戦

紅型で染めたcomomoの樹のロゴ (写真提供:作家本人)

comomoさんは、東京都生まれ、神奈川県育ち。2015年まで実家で家族と暮らしていたが、「やりたいことを見つけられなくてモヤモヤしていた」と振り返る。

そんな自分を変えるため、新天地で一人暮らしすることを決意。寒いのが苦手なので沖縄ならいいだろうと思いネットで仕事を探していたところ、名護市安部にある藤﨑紅型工房の見習い募集の案内を見つけた。応募すると採用が決定し、ほどなく名護市内に転居。はじめての一人暮らしを始めた。

美術や工芸に専門的にたずさわった経験はなく、まったく未経験の状態からのスタートだったが、「これまでやめたいとか、家に帰りたいとか思ったことは一度もないですね」と話す。

1年ほど藤﨑紅型工房で勤務した後、技術の幅を広げるため、南風原町の沖縄県立工芸振興センターの工芸技術研修生として1年間を過ごす。自己プロデュース力を高めることを目的とした「工芸価値創造塾」にも参加し、独立を目標に歩んできた。

「研修では、課題として帯やタペストリーを制作していたのですが、早く終わったので自分でこういうのがあったらいいな、と思って作ったのが紅型ブローチです」

販売は考えていなかったが、発表会で好評を得たため、商品化を決意。産業まつりへの出展をきっかけに、浦添市宮城の雑貨店「フェリース」での取り扱いが決まった。現時点では自らの店舗は構えておらず、通販での取り扱いもないというが、5月には久米島で店舗開設が決まっており、通販用のホームページも立ち上げる予定だ。

作りたいものを作る

紅型ブローチには安全ピンがついており、帽子や衣服、バッグなどに留められる

「紅型のモチーフは、すべて県外出身の私が沖縄に来て出合ったもの」とcomomoさん。現在34種あるモチーフを、3月に開催予定の工芸価値創造塾成果展までに60種に増やしたいと意気込む。

新進の紅型作家として、さぞ忙しい日々を送っているかと思いきや、「作りたいものを作っている、という感じですね」とマイペース。「沖縄に来てからのほうが、自分らしくなったと感じます」と柔和な表情で笑う。

comomoさんのみずみずしい感性が、これから何を生み出していくのか楽しみだ。

(日平勝也)

comomoの樹
☎080-9873-5770
okinawamomonoki@gmail.com

工芸価値創造塾 成果展
3月1日(金)~3日(日) 
沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリースタジオ

(2019年2月7日付 週刊レキオ掲載)