創業前に知っておきたい スタートアップ企業が人材不足に陥る4つのパターン【働き方改革@沖縄(10)】


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

私は日頃、沖縄のいろんな業種の皆さんから、人手不足の相談を受けております。

土木建設業、介護福祉業、観光業、サービス業…。

10人規模から600人規模の会社まで、業種や業態、規模の大小など、さまざまな企業からご相談を受け、コンサルタントとして「その会社に定着する人材の採用」をゴールに設定してお手伝いしています。

今回は「スタートアップ」「起業」「創業期」の採用に関するお困りごとについてのアドバイスをお届けしたいと思います。

沖縄は全国的にみても、高い開業率で知られています。「起業したい」と思っている方も含めて、読んでみてくださいね。

◇執筆者プロフィル 

小宮 仁至(こみや ひとし) ファンシップ株式会社 代表取締役

広告会社やWEBマーケティング会社を経て、2015年にファンシップ(株)を創業。2016年より「レンアイ型採用戦略」を提唱し、企業へのセミナーや求職者への採用支援を実施している。1979年生まれ 熊本県出身。うちな〜婿歴10年の2児の父。

人の採用は、企業経営の過程において幾つかのシーンに分類されます。私が、よくお伝えするのは以下の4つのシーンでの分類です。

  • 離職者が出たことによる欠員補充
  • 事業拡大に伴う増員
  • 新卒採用に代表される定期採用
  • 相性が大事なスカウト・ヘッドハンティング 

この中で、創業時は「スカウト・ヘッドハンティング」的な採用が主な採用活動になります。つまりは「仲間集め」と言った方が分かりやすいでしょうか。

私が採用をお手伝いする時は「求職者を恋愛相手に例えていく手法」を取るので、実はこの時期の採用は、まさに「一生添い遂げたい結婚相手」を探すようなもので、非常にお手伝いのしがいがあり、大好きな仕事です。

しかし残念ながら、多くのスタートアップ企業がこの創業時の採用・仲間集めでつまずき、場合によっては倒産の大きな要因になってしまっています。

なので、創業時に気を付けたい採用のポイントを4つご紹介します。

1.「商品・サービス」ばかりにこだわって、採用を軽視しているパターン

これは職人肌の方や技術者出身の方に多いパターンです。例えば「〇〇ホテルの料理長出身の方が念願の自身のお店をオープンする」といった時。もちろん、料理はこだわり、素材にこだわり、内装にもこだわり、絶対の自信を持ってオープンしたのに…

「ホールのアルバイトが集まらない!」

という状態が、このパターンです。

今の時代、「人手不足」がどれだけ経営にとってインパクトがあることか認識しておかないとこうなります。料理がいくら一流でも、働く人が集まる理由にはなりません。「自分は料理のことは分かるんだけど、それ以外のことは分からない!」と言ったって後の祭り。

恋愛に例えるなら、「こだわりのマイホーム」さえ建てれば、結婚相手なんか幾らでも見つかる!と思っているようなもんです。ちょっとイタイですよね!?

2.新規オープンさえ乗り切れば何とかなると思っている「その場しのぎ採用」

実は、新規オープンや創業時の採用は、意外と人気があります。「安定している既存企業」が窮屈になった人、先輩後輩の上下がなくフラットな組織で働きたい人って、一定数必ずいるからです。

なので「新しいところで働きたい!」ということで、割と簡単に集まってしまうこともあります。

しかし、創業時の企業や店は、安定している既存企業ではあり得ないことばかり。営業で入ったはずなのに総務も兼ねたり、販売スタッフだったはずが製造も兼任したり…。創業者自身だって「こんなはずじゃなかった」ということが、たくさんあるので嘘をついたつもりはではなくともギャップが生まれがちです。

それに加えて
「ごめん! 次の休みの日、悪いけどちょっと出勤してくれない!?」

「ごめん! 今期は計画より売上が悪かったから、昇給は待って!」

などなど、最初から伝えていれば、決定的な退職理由にならないことでも、創業時の希望に満ちあふれた話との落差が大きいだけに、労使の溝が大きく生まれ定着しないことが多くあります。恋愛に例えると、「出会った頃は好きだったのに、同棲してみたら…」というパターン。ありがちな話ですね。

3.創業メンバーが成長期のメンバーに「創業当初はこうだった」と多くを求めると集まらない

創業1年~2年で、3.4人くらいの時…。一応、社長や代表は決まっているけど各々の得意分野を活かして、遮二無二頑張っている時期。ある意味、楽しい時期ではあるんですが、会社が成長期に入り、次のステージに上がっていく時に問題になるのがこのパターンです。

創業期のメンバーが新規メンバーに対して「昔はもっと大変だった。今の君たちは恵まれている」と言って、創業期と同じような「頑張り」を求めた結果、新人が定着しないパターンです。経営者も、創業メンバーは言わば苦しい時をくぐり抜けた同志。なかなか強く言えない上、この層がへそを曲げて辞めてしまったら大変です。当然、新規スタッフより創業メンバーを大事にしてしまうので、いつまでたっても新しい人材が定着しません。

創業メンバーは創業時の会社に魅かれて集まったメンバー。拡大期の新規スタッフは、その時の会社を見て集まったメンバーです。全く同じメンタリティや働き方を求めるのは酷です。

 

4.「自分と同じ人」を求めてしまい誰もついて来ない

最後に創業前の仲間探しで、一番多いのがこのパターンです。

営業も商品開発も資金繰りも経理も会社の備品の買い出しも…。何から何までやらないといけないのが創業期。「ああ! 自分がもう1人いたらいいのに!」と今まさに叫んでいる人もいらっしゃるのではないでしょうか?

でもね、この世にどれだけ探しても、どれだけ大金を積んでも、絶対にいない人物がいます。それは「あなた自身」です。あなたと全く同じ人物だけは、採用できないのです。そりゃ、そうですよね。世界にあなたと同じ人間は2人といません。

それなのに、多くの創業者は「自分と同じ考え、自分と同じ経験、自分と同じスキル、自分と同じモチベーションの人」を求めて、採用したいと思っています。創業者だけではありません。実は多くの経営者がこのことに気づいていません。

こんな考えのままでは、誰が面接にきても、誰が働いてくれても「自分だったらもっとこうするのに!」と、自分との違いばかりが目につき、それが欠点や弱点に映ったりするのです。

結果、いつまでたっても仕事を1人で抱えるワンマン経営者になってしまうのです。
 

「役割・業務範囲・タスク」の棚卸を!

では、最後に「創業期には何を注意して採用をすればいいか?」についてお伝えします。

それはズバリ、
「自分にしかできないことは自分でやる」
「自分でなくてもできることは他人に任せる」

そんな割り切りが重要になります。

創業するということは、何かしら、コアなスキルだったり、世の中にないサービスだったりを持っているから始めることでしょう。でも、実際に始めてみると想定と違うことや環境の変化は必ずあります。その時に対応できるのは、やはり創業者自身しかいません。そしてこの対応は、多くの人にできないことだからこそ、あなたは創業者なのです。

日本人は、「身体を率先して動かす人こそがリーダー」という発想が根強く、「頭に汗をかくこと」はあまり評価されない価値観があります。よって、「創業者、代表者だからと言って自分が好きなことや得意なことばかりやっていたら従業員に示しがつかない」という考えが、会社の上下関係として末端にまで伝わってしまっているケースが多くあります。

その結果、役職ごとの「役割・業務範囲・タスク」が曖昧になり、結局は人手不足なのに、「どんな仕事をどんな人にやってほしいか?」を明確にできない組織になってしまっています。その結果、採用基準も曖昧になり、せっかく採用できても、評価できないので、必然的に定着してくれないのです。

そんな組織にならないようにするためにも、また創業期から採用に困らない会社になるためにも「役割・業務範囲・タスク」を常に棚卸しをして、「どんな仕事をどんな人にやって欲しいか?」を明確にし続けることが重要です。
 

執筆者プロフィル 小宮 仁至(こみや・ひとし)
ファンシップ株式会社 代表取締役

http://www.funship.jp/

「レンアイ型採用コンサルタント」「レンアイ型就転職コンサルタント」として、商工会議所など公的機関でのセミナーを随時開催し、2016年以降300社以上が受講。就・転職者向けセミナーや個別相談300件以上、中小零細企業向けの採用コンサルティングでは個別相談企業100件以上、契約企業で6カ月以内の採用成功率は87%。沖縄県商工会議所連合会エキスパートバンク登録専門家、沖縄県産業振興公社登録専門家。1979年生まれ 熊本県出身 2002年より沖縄移住。うちな〜婿歴10年の2児の父。