犬たちを「ガス室」に行かせたくない! 沖縄で殺処分ゼロを目指す母と娘の挑戦


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

殺処分ゼロは収容数ゼロから

沖縄ハッピーテイルズの活動

ペットブームの裏で、殺処分されている犬や猫たちがいる……。そんな現状を変え、すべての動物が幸せに生きる世界を目指して活動しているのが「沖縄ハッピーテイルズ」だ。代表の平野しえさんと娘で歌手のなゆたさんが中心となり保護犬を里親につなぐ活動を行っている。一頭の犬を救うことから始まった小さな運動は、多くの人たちの協力で、目標に向かって動き出している。

沖縄市内にある沖縄ハッピーテイルズのメインシェルターで動物愛護管理センターから引き取った犬たちと並ぶ平野しえさん(右)となゆたさん。2人が抱くのは(左から)保護犬のシェリーとコリン  写真・村山 望

沖縄市内に広がる畑の一角に置かれたプレハブ。ここは犬の保護活動をしている「沖縄ハッピーテイルズ」のメインシェルターだ。現在5頭の保護犬が暮らしている。その他引き取ったばかりの犬を保護する隔離用シェルターに8頭、一時預かりボランティアの元にいる犬も含めると合計約30頭を飼育中。すべて動物愛護管理センターから引き取った殺処分対象だった犬たちだ。

約5年前、保健所に連れて行かれる寸前の犬を引き取ったことをきっかけに、沖縄の殺処分の現状を知ることとなったしえさん。その後、動物愛護団体でのアルバイトを経て独立。2017年に知人の企業の敷地内にテントを設置し、一頭の犬を保護することから始めた。

活動を通してつながった仲間やSNSなどの呼びかけに応じてくれた人々の協力があって今に至る。土地を提供してくれた人、プレハブを提供してくれた人、犬用のゲージを集めてくれた人、犬の訓練の協力をしてくれるプロのトレーナー……。シェルターには一人一人の思いが詰まっている。

小規模で一頭一頭を管理

シェルターでは訓練もしっかり行っている。ボランティアの協力も心強い

今まで引き出した保護犬は約190頭、里親には約160頭を譲渡した。シェルターは小規模で運営している。「一頭一頭に全力で関わり、訓練もしている。センターから引き出すだけでなく、一生の家族の元に届けてあげるところまでがレスキュー。犬たちをハッピーテイルズ(幸せなしっぽ)にしたい」(しえさん)

約半年前からは娘のなゆたさんも活動に従事。シェルターの管理を2人で分担し、しえさんと共に中心的な役割を果たしている。SNSによる情報発信を積極的に行い、里親への譲渡率も増加した。

なゆたさんがこの活動に関わることになった転機は昨年、ホームページを制作したとき。「譲渡された犬たちの今の姿を紹介しようと、里親のもとを訪れた。犬たちはとても幸せそうで。一頭一頭の人生が変わっていることを実感した」と振り返る。歌手でもあるなゆたさんは歌でも活動を支援。自身のライブでも活動のことを発信したり、テーマソングも作ったりした。なゆたさんは「一緒にやった方がいろいろなことができるし、犬のことももっと助けることができる」と話す。

「モバイルハッピーテイルズ号」を制作中のボランティアメンバー

啓蒙活動で未来を変える

保護犬のアイアイ。引き取った当初(左)と3日後の写真。「多くの犬がセンターから出した途端に目つきが変わる」となゆたさん

「これからが本番」と意気込む2人。沖縄県の殺処分数はこの10年で大幅に減少した。2007年に収容した犬は5818頭、そのうち殺処分の数は5557頭、17年は収容数が1007頭、処分数が153頭だった。「ひと月にあと10頭助けることができたら『ガス室』で犬を処分しないで済む。あと一歩というところまできている。この流れを止めてはならない」としえさんは力を込める。なゆたさんも「立派なシェルターはなくても、一頭を自宅で助けられる人が10人集まれば処分はなくなる」と続ける。

今後は啓蒙活動にも力を入れていく予定だ。しえさんは「保健所に犬が入らない仕組みを作らないと。それには教育や啓蒙が必要。収容された犬の大半は首輪を付けている。捜し方を知らない、避妊去勢しない、不適格な飼い主が問題の根元。処分だけを止めても解決しない」と強調した。現在、ボランティアたちが定期的に集まり、廃材やリサイクル品を使って、軽トラックを改造した「モバイルハッピーテイルズ号」を制作中。SNSを見ない人たちの元にこの車で出かけ、啓蒙活動をしたり、迷子札を配ったり、相談に応じたりする計画だ。

理想は小さい成功例になること。しえさんは「誰かが小さく始めたことがうまくいけば、できる範囲でやってみたいという人も出てくると思う」と希望を話す。

センターに収容される犬がゼロになる日を目指して、今後も挑戦を続ける。

引き取ったばかりの犬たちを管理する隔離用の「たんぽぽシェルター」。名前には土地の持ち主の「タンポポ先生」と犬たちがタンポポの綿毛のように県内外に飛び立って花を咲かせてほしいという願いが込められている。

 (坂本永通子)

沖縄ハッピーテイルズ
https://www.okinawahappytails.com/
※犬引き取りの相談に関しては不可

(2019年3月7日付 週刊レキオ掲載)