「AEDセクハラデマ」から考える デマと偏見の広がり方 モバプリの知っ得![95]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

今年5月、ツイッター上で「女性にAEDを使用するとセクハラで訴えられる」という情報が広がりました。

AED(自動体外式除細動器)は心臓が突然止まった時に電気ショックをあて、心臓の動きを復活させる機械。学校やスーパー、空港などに設置されています。
AEDを使用するには電気パッドを直接肌に当てる必要があります。そのため洋服を脱がしたり、切ったりしないといけません。「女性を救助したとしても、洋服を脱がせたらセクハラで訴えられるんだ!」ということです。

しかしながらその情報は正しくありません。AEDの使用は人命救助のため、「強制わいせつ」や「器物破損」には当たらないと、複数の弁護士が述べています。
 

「AED」のため女性の服を切ったら「痴漢」扱いされた――人命救助でもダメなのか?
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1196/n_2237/

【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってセクハラになる可能性ってありますか?
https://inoti-aed.com/aed-low1/

このような「AEDセクハラデマ」は定期的に発生します。
命に関わる情報なだけに、正しい知識が求められています。

デマは「曖昧さ」減らしで対応!

同じようなAEDセクハラデマは2017年12月にも発生しています。
これもあるツイッター投稿がきっかけでした。

“AEDを使用する際服を脱がすわけですが、社内アンケートの結果「男性にされたらセクハラで訴える」という女性社員が多かったため、女性社員が倒れていたときの救助活動一切を女性にさせ、男性しかいないときは女性を呼び出すか、契約書に本人の署名をしてもらってから救助する。という会社に遭遇した。”

この投稿は瞬く間に拡散され、「女性が倒れていても男性はスルーすべきだ」とした意見も多く出てきました。投稿から2日後、投稿者はこの話が「創作話」であることを認め、謝罪しました。
 

広がった「AEDセクハラデマ」と、その裏で築かれる偏見 モバプリの知っ得![36]
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-639820.html

実はデマや流言、誤情報の拡散に関しては方程式があります。

  R=I×A

  Rはデマの広がり、Iは内容の「重要さ」、Aは内容の「曖昧さ」です。『デマの心理学(1947年)』

つまり、重要さ・曖昧さを減らすことができれば、デマは広がりにくくなります。

2017年のAEDデマを知っている人は「また同じパターンか」と今回の投稿を見た時に思ったのではないでしょうか。過去の騒動から「セクハラでは訴えられない」という事実を知っているからです。

しかしながら初めて投稿を見た人は「ありえそうだ」と曖昧さがあります。また、セクハラで訴えられると自分の信用に大きく関わります。重要な情報だと思い、つい人に知らせたくなり拡散する、という心理ですね。

同じような事例で「乾燥海産物デマ」もあります。
これは「道端で乾燥海産物の匂いを嗅がされると失神して、臓器売買されるから気をつけて」という注意喚起の文章がメールやメッセージアプリで拡散される事案です。

元は外国で出てきた噂・都市伝説だったものが、2017年には沖縄県民の間でも拡散。
この文章に関する記事を当サイトに書いています。
 

「路上で乾燥海産物を〜」 広がるデマ、広げてはいけない理由 モバプリの知っ得![30]
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-608321.html

興味深いのはこの記事が「この文章回ってきたけど新聞社がデマって書いているね」というコメントで定期的にシェアされることです。おそらく色々な地域で、同じような文章が拡散されるのでしょう。気になって調べた人がデマであるということを発見し、真実の情報をシェアする。

有名なデマはネット上にその情報が残っています。
ネットの情報が全て正しいわけではありませんが、気になる情報を見かけてもすぐに反応するのではなく、一度検索してみて過去の類似例などから「曖昧さを」減らしていく事が大事です。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

ナチュラルな「ミソジニー」が氾濫

今回のAEDセクハラデマも「命の恩人をセクハラで訴えるワガママな女」とした批判的な意見がセットでついてきました。

「鶏が先か卵が先か」ではないですが、こうしたAEDのデマが広がる背景には、「何かあると男はすぐにセクハラで訴えられる。窮屈だ」とした感情がベースにあり、そこに都合よく「AEDを使って男性がセクハラで訴えられた」という話を見かけて「それ、見たことか!」と反射してしまう。そう思えるような一連の流れです。

女性を敵視、蔑視することを「ミソジニー」と呼びます。
このAEDセクハラデマも、日が経つと徐々に「痴漢への抵抗で安全ピンで刺すのは許されるか」という論争に変わっていきます。

この流れの中、「風刺漫画家」がツイッター上で「痴漢への抵抗で安全ピンが許されるなら、男を傷つける女をレイプしてボコボコにしてやれ」という趣旨の漫画を投稿し、炎上することとなりました。

AEDセクハラデマはただのデマではなく、こうしたミソジニーと一体化しています。
デマを信じることで、AEDを適切に使えなくなるだけでなく、女性に対する偏見も植え付けられます。

偏見があるということは、曖昧さも誘発させます。
曖昧さが増幅すると、デマを拡散させやすくなる。デマが拡散することで曖昧さが増す。それにより…と、繰り返されて偏見が広がるわけです。

まずはその「情報が正しいか」を自分なりにしっかりと考え、デマであればそれに含まれている差別や蔑視的な態度がないか観察する。

こうした姿勢がネットを使う上で求められています。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」6月2日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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