「進化し続ける花鳥画」-本村ひろみの時代のアイコン(1)仁添まりなさん(県立芸術大博士課程)


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とっくの昔に沖縄県立芸術大学の研究科を卒業したというのに、今でも機会があれば、学生気分で集中講義や特別講座に顔を出している。アートを語る教授の話が面白いという事もあるけど、なんと言っても普段の生活ではなかなか出会えないアーティストや研究者の話を聞けることが刺激的。本コラムでは、伝統文化の担い手として、デザイナーとして、芸術家や音楽家として、パフォーマーとして、頭を悩ませながら日々制作活動に励む彼ら・彼女ら新しい〝時代のアイコン〟の創作の舞台裏を紹介していく。

『空』

絹に広がる楽園の世界

仁添まりなさん

「見ることではじめてこの世にあらわれるものがある」
これは前衛芸術家・赤瀬川原平氏の言葉。
コラム第一回目に紹介するアーティストは、日本画の研究に取り組む仁添(にぞえ)まりなさん。
沖縄県立芸術大学の後期博士課程2年に在籍中で、博士論文を書きながら創作活動をしている。彼女のテーマは、東洋で描かれてきた花鳥画。「楽園」や「理想郷」を独特の世界に落とし込み昇華させ、オリジナルの花鳥画を紡いでいる。

『それは楽園の鍵』

特徴的なのは、和紙やキャンバスではなく、あえて古来の日本画の技法にのっとって絹に描くスタイル。絹の質感にこだわって描くのは、絵の技術に加えて自分の感覚に沿う素材を選ぶという、作家の個性の現れ。

初めて彼女に会ったのは窓の大きな教室。光溢れる教室で、柔らかい笑顔と静かな印象だったまりなさん。日本画家は透明感がある、そんな私の勝手なイメージどおりの存在感だった。大学院2年次の1年間は体調を崩し休学し静養していたとのこと。そんな状況でも病室に画材を持ち込み、ベッドの上で絵を描き続けていた。その生活を通して完成させたのが『環』(=写真)。18×18センチの小さなパネルが63枚。虫やキノコを表現しており、一部は今も那覇市立病院で展示されている。

謎解きに引き込まれ

『還(わ)』

彼女の絵には、チョウや鳥、トカゲや猫などのモチーフが大胆な構図で配置され、その背景に幻想的な草花が広がる。濃密な感情が溶け出すような画風。揺るぎない幸福から崩れてゆくような不安定さ。ざわざわ感。
穏やかなでたおやかな印象のまりなさんの作風から滲み出るこの精神の内側はいったいどこからくるのだろう、と考えながら画面いっぱいに描かれたトカゲの足元に視線を落とすと、鋭い爪に踏み荒らされた大地にシダ類やキノコ。目には見えない地中深く、菌類は植物と共生している。

『芙蓉の森の満開の下』

「生のはかなさとその喜びを描き続ける」
インタビューの最後に彼女が言った言葉。
彼女の絵画は、作品の中に仕掛けられた伏線が見るものに謎解きを仕掛けているようだ。皆さんも絵画の謎解きを楽しんでみて下さい。

 *来年(2020年)2月、沖縄県立芸術大学大学院附属図書・芸術資料館で個展を開催予定。

◆筆者プロフィル◆

本村ひろみ

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。