上司や後輩と “ゆんたく” していますか?AI時代を勝ち抜く組織になるために【働き方改革@沖縄(13)】


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令和元年がスタート。働き方改革関連法が施行されて、2カ月経ちました。
みなさんの働く環境では変化は起きていますか。「時短勤務」や「有給休暇の取得促進」、「業務改善」による無理・無駄の排除など、一口に〝働き方改革〟といっても様々なアクションがあります。一方で、「長時間勤務の削減」、「生産性向上」の課題に翻弄されて、社員同士のコミュニケーションが疎かになってはいないでしょうか。効率化を追い求めるあまり、日頃の何気ない会話や社員同士に対する興味関心などを横において、淡々と業務を進めていませんか。

今回は、チームワークを強化するための「社内のメンバー同士が向き合うこと」について書いていきます。

◇執筆者プロフィル

波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント。

子育て・介護と仕事との両立に苦しんだ経験を踏まえ、2016年に起業。
「働く人のモチベーションを組織の活力へ!」をテーマに、沖縄の企業や個人を対象としたコンサルティングを手掛けている。
那覇市首里生まれ。1男1女の2児の育児中。

実はみんな良くしたい!

筆者は、「人材定着」「人材育成」「組織開発」というテーマで企業にコンサルティングを実施する際、潜在化している課題を探る目的で、経営者や社員の方々に一人一人ヒアリングを実施することがあります。

・    どうしてこの企業に入社したのか
・    どんな仕事をしていて、何を得意としているのか
・    どのように自分の力を発揮して貢献したいと思っているのか

など、個々のキャリアに関する内容や

・    この会社の良いと思う点
・    みんなが働きやすい環境になるためには何が必要か
・    こんなことがあればよりチームワークが強化できると思うことは何か

などです。

一人一人の話を聞き進めると、こちらが驚くほど真剣に組織のことを考えていて、組織が「より良くなって欲しい」という気持ちを聞かせてくれることが度々あります。組織を良くするためにとてもいいアイディアを持っていたり、実は「もっと上司やチームメンバーとじっくり膝を突き合わせて話をしたい」という思いがあったりと、組織に対して真摯に考えている印象を受けます。

その際、「あなたが組織についてこんな風に考えているという話を上司や同僚に話したことはありますか」と質問すると

「日頃は業務ミーティングしかないので、なかなか話しづらい」
「どうせ言っても聞いてくれない」
「不平不満に取られそうなので話せない」

という反応が往々にして返ってきます。翻って、経営者や上司の立場である方々の場合も同様で、実はとても部下のことを思っていて、どうすれば部下が働きやすい環境が作れるかと考えています。でも実際は、

「上司である自分が曖昧な態度を見せては部下を不安にさせるだけなので、自分の想いは横に置いて、組織としての決定事項だけを伝えている」
「自分の考えだけを伝えたところで、部下全員の要望に答えるのは不可能なので、できることだけ進めるようにしている」
「問題が発生した時にはしっかり対応するように心がけているので、普段自分が部下をどのように思っているのかなどは伝えていない」

などとの発言が返ってきます。経営者も上司も部下も、本当はそれぞれが組織や相手に対して様々な思いを持ち、「良くしたい」と考えているにも関わらず、実はその想いや考えを伝えていないという現象が見受けられます。そういう状況を垣間見ると、せっかく思い合っているのに勿体無いなと感じることが多々あります。

時には、コンサルティングの一環として、その思いを共有する場を設けてじっくり話をしてもらうこともあります。最初はぎこちない会話が続いても、お互いの思いが共有されて「こんなことを考えていたんだ!」という気づきが出ると、求心力が増し、チーム力が高まり、ビジョンに向かって一気に加速します。

組織って本当に「生き物」だなと、こういう瞬間に痛感します。

ギクッ、「無意識の偏見」に陥っていませんか

さて皆さんは、【アンコンシャスバイアス】という言葉を聞いたことがありますか?「無意識の偏見・思い込み」と訳されるアンコンシャスバイアスとは、「特定の人や属性に対して、知らず知らずに持つ偏った見方や意見」という意味です。例えば、

・    技術職は男性が向いている
・    女性は事務が得意だ
・    管理職はバリバリ仕事をするものだ
・    育休取得をする男性社員は、昇格欲が低い

などの思い込みが挙げられます。

人は誰しもこうした「無意識の偏見・思い込み」を持っていると言われています。こうした「無意識の偏見・思い込み」がどのように組織活動に作用しているのか。ある県内中小企業の事例を紹介します。

サービス業の同社。ある女性社員の話です。
彼女は、キャリアも長くかつてはマネージャーとしても活躍。その働きぶりは周囲からも厚い信頼を得ていたそうです。しかし、数年前に出産、育児休暇取得後、「しばらくは育児で時間が取られる」ということで、本人の希望により一般職に戻り、数年経った今も同じ役職で勤務していました。

ご本人に詳しく話を聞いたところ、
「子供が小学生に上がり、だいぶ手がかからなくなってきたので、本当は責任のある仕事をやりたい。でも独身時代と比較するとやはり働く時間が制限され迷惑をかけてしまう。今はもうマネージャーに戻れなくても仕方ないと思っている」とおっしゃいました。

上司の方にその点についてヒアリングを行ったところ
「育児中の女性がマネージャーをやるのはかわいそう。大変な仕事だし、考慮して一般社員のままで働いてもらっている。本人も納得している」と回答がありました。

・    長い時間働けないとマネージャーの資格がない(女性社員の思い込み)
・    育児中の女性はきつい仕事はできない(上司の思い込み)

これぞまさにアンコンシャスバイアスが生じている状態です。無意識のうちにこうした思い込みに囚われてしまい、その思い込みのまま対応し続けていることがこのような結果を招いてしまっていると感じます。
「育児休暇前と比較して、育児休暇後には責任の軽い仕事しか振られない」との話はよくあるアンコンシャスバイアスの現象だったりします。

上記の企業では、面談の頻度が少なかったため、上司と女性社員の面談では深い話しができていないということも背景としてありました。女性社員としては自ら「マネージャーに戻りたい」と言わない限りは、特にその点については触れられることもなかったそうで、あえて本人も言わなかったようです。
アンコンシャスバイアスの解消には「コミュニケーション」が重要であることを示唆している事例とも言えます。

しっかりと向き合って、お互いの気持ちや現状を正直に伝え、どんな方法がいいのかを一緒に考えることができれば、このような認識ギャップは生まれなかったはずです。もちろん組織としてできること、できないことはあるにせよ、それも踏まえて状況をありのまま伝えて、お互いが納得できる解決策を導き出せば、組織にとってはマイナスにはならないはずです。

「子育て中の女性はこうだ」
「上司はこう考えているはずだ」
「組織とはこんなもんだ」

と決めつけて、画一的に制度を導入したり、対応策を練ろうとするのではなく、一人一人に向き合う、お互いを認め合うことが必要ではないでしょうか。

AI時代だからこそ

AIやロボットの進化により、人間でなくてもできる仕事はどんどん奪われています。逆に、

・    創造する
・    発想する
・    思いを汲み取る
・    共感する
・    相手に寄り添う
・    
など、今後はどの業界、どの業種にも、人にしかできないことを軸に仕事が成り立ってくると考えられます。

そうした時に、ただ単にPCの前や現場でルーティン業務をこなしていく日々では、「人にしかできないこと」の感性がどんどん劣化してしまいます。
まずは、自社の経営者、上司、先輩、同僚、部下、後輩など、チームメンバーに対して

・    あの人は何が強みなのか
・    どんなこと好きなのか
・    どんな仕事を経験してきたのか
・    今後何に取り組んでみたいと思っているのか

など、興味を持って相手を知ってみませんか。そのためにあえて業務時間内に「ゆんたくタイム」などを定期的に仕組み化しても良いかと思います。もちろん人と人なので相性もあります。「全ての人を理解して好きになれ」ということではなく、相手に対して「関心」や「興味」を持つことがチームワークには不可欠なのです。

組織は「人」で構成されています。人と人の関係性が、実は企業活動に大きく影響します。お互いが日々業務に取り組む姿とは違う、別の顔をあえて開示することで(個人の許容範囲で)、人に対する興味を持ち、自分自身の感性を磨き続けませんか。

恐れずに、言い訳をせずに、人と人として向き合うこと。
生き生きと働き、活性化する組織には不可欠なポイントです。

【執筆者プロフィル】

波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント

那覇市首里出身。株式会社JTBワールド、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローを経て、2016年Cosmic Consulting設立。
【働く人の生き生きを組織の活力へ】をビジョンとし、主に働き方改革や人材定着、人材育成プログラム構築、組織開発など、人事面から変革を起こすための組織活性コンサルティングを行っており、マスコミ、福祉法人、ホテル業界、飲食業界等、多種多様な業界に対してのべ100社以上のコンサルティング実績を持つ。
コズミックコンサルティングのHP→http://kozumi-naminoue.com/​