ゆらゆらとフワッとした浮遊感 - 本村ひろみの時代のアイコン(5)小林実沙紀さん(沖縄県立芸術大学大学院 環境造形専攻 絵画専修2年)


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『言霊』

3年前の9月、県立芸大の図書館に向かっていた時のこと。午後の暑さ厳しい時間、校内は静まり返っていた。その時いきなり目の前をふわふわとまるで鼻歌を歌いながら(実際は歌っていないけど)やってくる少女とすれ違った。あれ?どこから??蝶々が突然現れるかのような登場の仕方。黒い傘に黒いワンピース、淡い水色の短めのソックスに茶色いシューズ姿の彼女は、少し急ぎ足で絵画棟に向かっている。私はおもわず声をかけた。

宝物のように

小林実沙紀さん
卒業制作『泉へ向かうものたちの声を聴く』と小林実沙紀さん

「芸大生?どこに行くの?」
それが私が小林実沙紀さんと知り合ったきっかけだ。

私は用事があったのにもかかわらず、「制作中なんです」という彼女の了解を得て、一緒に絵画棟までついて行った。夏休み中で静かなスタジオには他にも数人の学生さんが絵を描いていた。聞こえるのは蝉の鳴き声と誰かが流している音楽。透明な柔らかいトーンの絵。絵の具の匂い。足元には、ガラスの瓶にいれられた岩絵具が宝物のように並べられていた。

『漂い』

実沙紀さんは、水彩画が好きだったことから高校生になって本格的に日本画を学び始めた。「沖縄に来てから彩度があがったんです」と微笑みながら制作中の絵を見せてくれた。幻想の森のなかを舞う鳥たちの絵だった。
作品「漂い」。

高知麻紙に水干(すいひ)絵具で下地を描き、そこに岩絵具をおいていき、雲母を塗って仕上げたこの作品は、2016年「石本正(いしもとしょう)日本画大賞展」で準大賞を受賞し、島根県の石正美術館に収蔵されている。

色をまとった言葉たち

一般的に日本画の画材は高価なものが多い。鉱石や半貴石を砕いて粉にして作られる岩絵具は、細かいグラデーションの顔料で、原料は見た目にも美しいうえに様々な工夫で微妙な色合いを作り出すことができる。蛇足だが、私が敬愛するユーミンも美大時代は日本画専攻だった。なので、私は日本画を描く人に勝手ながら憧れを抱いている。

『願いは夜の彼方へ』
『偽り』

子供の頃の実沙紀さんはおしゃべりが苦手で、そのかわり描く女の子の表情を豊かにして自分の思いを絵に託していたそうだ。考えながらゆっくりと自分の思いを言葉にしていく彼女は、きっと子供の頃から言葉について人一倍、繊細だったに違いない。作品「言霊」を見た時、そう思った。

『言霊』

横顔の少女は何か言いたげだ。そしてその口元から溢れでる言葉の魂たち。
この絵は2017年京都の「佐藤太清(さとうたいせい)賞公募美術展」日本画の部に入選した。

学部の頃から数々の賞を受賞し、現在は大学院の修了制作に取りくんでいる彼女が、これまで描いた作品に新しい作品も含め個展を開催する。
“断片的な言葉を絵に描きおこす。そのままでは伝わりにくいことを形にするため岩絵具を使って作品に仕上げる。”
静かな眼差しで彼女はそう語った。

「小林実沙紀展 ことばを食べた色の話」

*6月14日〜6月19日
  ・沖縄県立芸術大学 付属図書・芸術資料館2階 第3展示室
  ・入場無料
*6月17日〜7月19日
  ・café木箱 (那覇市首里儀保1-8)ではミニ個展と趣味で始めた手芸の作品、ブローチやボタンも販売。

【小林実沙紀プロフィール】

こばやしみさき

1995年 愛知県出身
2014年 愛知県立旭丘高等学校 美術科 卒業
2018年 沖縄県立芸術大学 美術工芸学部絵画専 卒業
2019年 現在 沖縄県立芸術大学 修士課程 2年 在籍
高校入学を機に学んだ日本画に興味を持ち、日本画特有の画材を用い日常の中で感じるできごとを「色」に託し独自の絵画表現を試みる。
作品サイト: sakumimiko .tumblr.com

 

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。