招き猫ならぬ招きヤギ?沖縄の店頭で商売繁盛を支える看板ペットたち


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地方部記者が担当地域のイチオシを紹介する「J(地元)☆1グランプリ」。今月は地域に笑顔を届ける「看板ペット」を紹介します。ペットブームの中、動物を飼っている家庭も多いですが、店や施設の看板として頑張る各地域のペットたちは実に個性豊か。愛らしい姿や一風変わった特技で、訪れる人々を癒やしているようです。あなたの周りにも、隠れた看板ペットがいないか? 探してみませんか。

(次回は7月21日)

店長犬ぷりんとヤギのモグ  ★ 今帰仁村「カフェ&コテージ オーシャンブリーズ」

角の先のボールがトレードマークのモグと車に乗るのが好きな大型犬ぷりん。「モグはお手が特技なんですよ」と話すオーナーの甲斐賢吾さん、みどりさん夫妻=10日、今帰仁村古宇利島

来客に歓迎と癒やし

今帰仁村古宇利島の「カフェ&コテージ オーシャンブリーズ」で来客を迎えるのは、バーニーズマウンテンドッグの店長犬ぷりん(5)とヤギのモグ(9)。いずれもメスの看板ガールズだ。犬連れの客も受け入れる店の顔として、ぷりんは犬の気配を見逃さない。駐車場に客の車が止まると、窓のそばからじーっと視線を送り「ワン、ワン」と歓迎する。

2010年に大阪から移住して店を開いた甲斐賢吾さん(53)と妻みどりさん(50)は「『モグちゃん居る?』『ぷりんに会いたい』と、訪れるお客さんも多いですよ」と語る。

開店当初、知人からもらった慶良間諸島・前島の子ヤギがモグだ。初代店長で、引退した今は悠々自適の身。日がな草をはんでのんびり過ごしている。圧倒的な力の差で大型犬ぷりんも一目置く存在だが、若い男性には体をスリスリするイケメン好きな一面も。生後3カ月で店に出たぷりんは、これまで500匹近い犬を迎えてきた。体重40キロと大きいが、他の犬がけんかしていたら仲裁に入る穏やかな性格だ。晴れた夕方は、看板娘たちと一緒に近くの渡海(とけい)浜まで散歩するという甲斐さん夫婦。「モグとぷりんは家族です」とほほ笑んだ。

(岩切美穂)

名無しのインコ  ★ 沖縄市「ファッションRIP」

ファッションRIPの店先のベンチに腰掛けインコの紹介をする平安山謹さん(左)と米子さん=11日、沖縄市中央

毎朝、店先でさえずり

「我が輩はインコである。名前はまだない。我が輩の青色の羽根が見劣りするくらい色鮮やかな婦人服が並ぶ店の看板を務めて、1年半が過ぎようとしている」。

1975年に沖縄で初めてアーケード型商店街として誕生した一番街に、当時新婚だった平安山謹(のり)さん(74)と妻の米子さん(73)は婦人服店「ファッションRIP」を構えた。

動物好きではないという謹さんが「孫のため」と友人から2羽のインコを引き取った。相棒のインコは昨年の冬に寒さで死んでしまった。

ファッションRIPの看板インコ

「常連客の女性たちや、連れられて来店する子どもたちは『こんにちは』としきりに話し掛けるが、返事はできない。無口な我が輩を横目に、地元の常連客たちは店先のベンチに腰掛け、『ぴーちくぱーちく』とユンタクに花を咲かせている」。

市上地に住む女性(79)は、昼食の弁当を食べながら「やすらぎだね」とほほ笑んだ。

かつてにぎわいを見せた商店街を気に入っている。「毎朝、店頭に出すときは『ピーピー』とうれしそうにさえずるよ」と謹さん。「我が輩の本心はお見通しのようだ」。

(下地美夏子)

犬のタロウ  ★ 与那原町「洋食レストラン YOUSHOKUTARO」

「洋食レストラン YOUSHOKUTARO」の看板犬タロウと、店長の瑞慶覧長由さん(右端)と、ちか子さん=13日、与那原町

お客に「なでて」コール

さみしがり屋で甘えん坊のタロウは、与那原町にある「洋食レストラン YOUSHOKUTARO」の看板犬だ。11歳のオス。生後2~3カ月で箱に入れて捨てられていたところを拾われた。店長の瑞慶覧長由(おさよし)さん(40)、ちか子さん(41)夫婦に“瑞慶覧家の長男”として、愛情たっぷりに育てられている。

タロウはここ2~3年、瑞慶覧夫婦と一緒にお店に出勤することが多い。家でお留守番させていると「寂しくてすねてしまう」という。長由さんは「トイレ以外の場所におしっこをして、困らせることもあるんですよ。仕方ないから一緒に出勤するようになった」と話すが、タロウを見詰める表情からは、困った様子は感じられない。「仕事中も一緒にいたいのが本音です」とちか子さんが笑った。

人懐っこいタロウは、お客が来ると尻尾を振り「僕をなでて」と言わんばかりにじっと相手を見詰める。最近は「タロウ君は今日、店にいますか」と電話が掛かってくることもしばしば。「料理より、タロウの方が人気が出たらどうしよう」と話す長由さんの隣りで、タロウは大あくび。「まぁそれもいいか」と言いながら、長由さんとちか子さんはタロウの頭をなでた。

(嘉数陽)

犬のアイスとティダヌファ  ★ 石垣市「石垣島馬広場」

石垣島馬広場に訪れる人たちを出迎えてくれる看板犬のアイス(前列左)とティダヌファ(同右)。その後ろで笑顔を見せるのが代表の朝倉隆介さん(右)と妻の美枝さん(左)=12日、石垣市平久保

芸と接客でおもてなし

石垣島の北端・平野集落のはずれにある牧場で、のんびりと草をはむヨナグニウマを中心とした10頭の馬たち。その中でこれまたゆったりと過ごし、訪れる人々を出迎えるのが観光乗馬を営む「石垣島馬広場」のアイス(10歳・オス)とティダヌファ(通称ティダ、3歳・メス)の2頭の看板犬だ。

与那国島の方言で「愛きょう」「かわいらしい」の意味を持つアイスは、代表の朝倉隆介さん(37)と妻の美枝さん(35)が馬広場を開く以前に働いていた与那国島の牧場からの付き合いだ。

芸達者で、一部コースでは馬たちと一緒に散歩に繰り出す。美枝さんは「乗馬に緊張していても、アイスのしぐさになごむお客さんもいる」とその働きに太鼓判を押す。

そんなアイスとコンビを組むティダは元々捨て犬で「最初は人見知りをするが慣れると甘えん坊」の牧場のムードメーカー。アイスほど芸はできないが「元気いっぱいな姿でお客さんをきゅんとさせ、接客してくれる」という頼りになる存在だ。

馬だけでなく、彼らに会うのを楽しみに牧場を訪れる客もいるというアイスとティダ。朝倉さんは「なくてはならない存在だ」と笑顔を見せた。

(大嶺雅俊)


居てくれるだけで幸せ

繁忙さに、われを忘れて、ふと目を移す。塀の上にネコ。優雅に鎮座し薄目で睥睨(へいげい)する姿に「あーネコになりたい」。そう思った人もいるでしょう。

優雅な振る舞いに見えてネコや犬、鳥らペットの側にも言い分はあるでしょう。「そんなたやすい時勢じゃないよ」。こちらの勝手な思い込みに基づく解釈でしかありませんが、そう返されるかもしれません。

さて今回紹介した看板ペットはもはやパートナー、一心同体の世界をつくり上げているのでしょう。話は通じないけど、居てくれるだけで幸せ。そんな幸せな世界があちこちにあります。

(学)

(2019年6月16日 琉球新報掲載)