「オレの人生あかんなぁ」のマインドから目標に走り続ける男 — 本村ひろみの時代のアイコン(8)神谷邦昭さん(映像作家)


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映画製作の為の借金、バイト漬けの日々、心身ともに疲弊しそのうえ人間不信になって、とうとう10万だけを握りしめてオーストラリアへ。到着した時は所持金がたったの4万円。シェアハウスでの暮らし、初めてのベビーシッターのアルバイトも。そうこうするうちにオーストラリアで保育士・ベビーシッターの資格(チャイルドケア)まで取得・・・。こんな激動の20代を経た男・神谷邦昭さんは今年30代になり、今年6月、第5回新人監督映画祭コンペティション部門短編部門で準グランプリを受賞。そして今月はカナザワ映画祭にも入選するという快挙を成し遂げた。

自費出版で切り開く

今回準グランプリに輝いた作品『素晴らしきクソったれな青』は25才の時に神谷さんが自費出版した小説。既存のTV番組には興味がなく、最初から自分で書いた脚本で映画化するつもりだったという。だから学生時代にはとりあえず脚本をばんばん書いては制作会社に送っていたそうだ。
そんなある日、新聞で
「あなたの原稿を本にしませんか?」という文芸社の広告が目に止まり、これだ!と原稿を文芸社へ持ち込み自費出版で本にした。話を聞いていても、とにかく勢いがある。神谷さんは躊躇せずに突き進む感が半端ないのだ。本のカバーデザインも自分で考え、青春ドラマの作品らしく真っ白い紙を鉛筆で塗りつぶし、消しゴムでタイトルが浮かびあがる感じに仕上げた。荒削りな印象を大切にして。

そして本を売るために、その時アルバイトしていたヴィレッジ・ヴァンガード小禄店で培った販売のノウハウを駆使して、ほぼ全国のヴィレッジ・ヴァンガードに手書きで「本を売って欲しい」と切実な想いを綴った手紙を書いたそうだ。作品の面白さと彼の努力と人柄も相まって、半年後に重版。500部増刷。この時点で「ライバルは朝井リョウ」と決め、朝井リョウさんご本人にご挨拶の手紙を書いたという逸話が私は好きだ。(返事は来なかったらしい)
この本は16分の短編映画になって今回日の目を見た。諦めないってつくづく大切だ。

勇気、知性、そして・・・

青春ドラマのこの作品、メインキャストは3人。鬱々と毎日を過ごしている主人公の男子高校生と彼のクレイジーな友人、そしてほのかに恋する相手役の女子高生。昨年の4月から5月にかけてオーディションをして6月に3日間かけて撮影。夢を着実に形にしていっている神谷さんの撮影現場には虹もかかっている。

最後に「映画監督に必要なものはなんですか?」という質問に間髪入れず「勇気と知性と根性。機材は持っているプロ任せ」と答えた神谷監督のこれからにワクワクです。

短編映画「素晴らしきクソッたれな青」

7月21日開催の「cinema day camp なごうらら」(ホテルゆがふいんおきなわ)で上映。那覇でも近日上映会企画中。

<キャスト>
主人公翔役:那覇市青少年プログラム出身の古謝大智
腐れ縁でヤバイ高校生役:ラッパーのOZworld a.k.a R’kuma(レオクマ)
翔がほのかに思いを寄せる同級生スリティー役:玉寄ナタリー美優 (所属:プロダクション キャッツアイ)
友人役:わたぬきかな(所属:有限会社FEC)

【神谷邦昭 プロフィール】

かみや・くにあき

1988年 八重瀬町出身
映画嫌いの父と映画好きの母のもとで育つ
豊見城南高校卒業
東京フィルムセンターにて映画作りを学ぶ。
2017年より(株)ククルビジョンにてKIFFO事務局長を務める。
ククルビジョン代表の映画監督 宮平貴子さんとは公私ともにパートナー。

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。