「光の量」と「素材」を追い求めてー本村ひろみの時代のアイコン(9)画家 平良優季(沖縄県立芸術大学 絵画専攻非常勤講師、博士課程教育補助専門員)


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『風の便り』
『つむぐ』

江戸時代から続く「つるし雛」は、生まれてきた子供の幸せを祈りながら母親や祖母が糸に布で作った人形や飾りを吊るしたものだそう。タイトル『つむぐ』(116.7×116.7cm)は、懐かしさを感じさせる暖色系の色彩で煌々と明かりが灯る「つるし雛」を描いている。

母が子を想う祈りを表現したこの作品は、2015年に制作され第26回 臥龍桜日本画大賞展に入選した。作者の優季さんは、目に見えない、形のないものを色やモチーフの重なりで表現する。素材に高知麻紙、寒冷紗、岩絵具、水干絵具、箔を使用。日本古来の伝統の行事を日本画の素材に、彼女独特の素材「寒冷紗(かんれいしゃ)」を用いて幻想的に仕上げている。

子供の頃から絵を描くのが好きだった優季さんは、与那原の海辺の近くで、姉妹のような母の愛情をたっぷり受けて育った。高橋留美子の「うる星やつら」の影響で将来は漫画家になりたかったというエピソードを笑顔で語ってくれた。その後、なぎなたに没頭していた高校時代に転機が訪れる。日本画を学んでいた美術の先生が、一つの画面のなかに物語を描く楽しさを教えてくれたのだ。それから志望校を県立芸大へ決め、芸大受験の那覇美術造形学院に通いデッサンや着彩を学んだ。現役で県芸に合格。夢が叶い、いざ絵を描き始めたら、絵の具が上手く画面にのらず、ドロドロと闇の中を模索し日本画への葛藤が続いた。

取材に答える平良さん。

「学部の4年間は公募に作品を出すことも出来ず、暗黒でした」とポツリ。そこで彼女を支えたのが、なぎなたで鍛えた粘りの精神力だった。「このままでは終わらない!絶対諦めない!」と自分を奮い立たせ卒業制作を完成させ、大学院へ進学。そして院へ進学してから、彼女の作品に欠かせない素材、「寒冷紗」へ本格的に取り組んでいく。「寒冷紗」は、荒く平織に織り込んだ布で、織り糸には主に麻や綿が使われている。優季さんは寒冷紗を画面全体に重ね、その特質から派生する効果を多角的に研究している。そして自身の作品に寒冷紗を取り入れることで、幻想的な表現のさらなる進化を目指している。

『ささやく』

大学院時代は数々の公募で入選も果たし、博士論文も書き上げた。沖縄県立芸術大学の絵画専攻初の博士となった優季さん。博士論文のタイトルは「日本画領域における幻想表現の一考察—重層構造としての寒冷紗の可能性について」。

素材と運命の出会いをした優季さんがいま最も興味があるのは「光量(lux )」。着彩をした時の裏彩色の見え方、照度の度合い、光によって見え方が様々だということについて目を輝かせて話してくれた。そして、今まで「つるし雛」のように地域を限定しないモチーフを描いてきたが、「光や色」に注目するようになった現在、生まれ育った沖縄のモチーフを用いて描く事で、より「光や色」を表現出来るのでは?と沖縄の植物、クロトン、ブーゲンビリア、ハイビスカス、リュウキュウアサギマダラ等を取り入れている。

『日々をほどく』
『ひそやかに』

「優季」という名前はお母さんが彼女の顔を初めて見た時に思いついたそうだ。優しい季節。大切な存在だった母親の死から一年が経ち、やっと気持ちが落ち着いて、その時感じた思いや感情に向かい制作に取り組んでいます、と話してくれた優季さんの個展がもうすぐ開催される。

「平良優季展 -overlap-」

2019年8月10日(土)〜18日(日)
ギャラリーアトス(那覇市金城1-7-1)(マップはこちら

*寒冷紗を使った新作を約25点展示予定

【平良優季さんプロフィール】

たいら・ゆうき

1989年 沖縄県出身
2008年 沖縄県立知念高等学校卒業
2017年 沖縄県立芸術大学大学院芸術文化学研究科後期博士課程(日本画)修了

公募展やグループ展の出品を中心に、沖縄を拠点に制作活動中。
ホームページ:http://yuki-taira.pupu.jp
Twitter:https://twitter.com/yu_ki627
インスタグラム:https://www.instagram.com/yu_ki_taira/

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。