東松照明の写真に惹かれ沖縄に ―本村ひろみの時代のアイコン(10) 批評家 北澤周也 (沖縄県立芸術大学 芸術文化学研究科 後期博士課程在籍)

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論文が掲載された『美術手帖』(6月号)

美術手帖創刊70周年を記念して5年ぶりに行われた「芸術評論」の公募に沖縄県立芸術大学の博士課程に在籍する北澤周也さんが「次席」となった事を知ったのは美術手帖(BT)のツィッターだった。

次代の芸術評論を切り拓いていく新しい才能のために創設され、評論家の登竜門としても期待されている同賞。112件の応募の中から栄えある次席に輝いた北澤さんの写真がBTサイトに掲載されていた。クールな印象。そして受賞コメントにはこう書かれていた。
「自分たちは(評論の)対象に対して愛憎一重でなければなりません。東松照明にラブレターを書くつもりはさらさらない。この先も、祝福されない人生を歩んで行きたい。」と。
このコメントにハートを撃ち抜かれました。彼の言う“祝福されない人生”とは、審査員で哲学者の星野太さんの受賞者への言葉「今回の祝福を忘れて今後挑発的な仕事をされることを心から願っています」に答えたものだった。



幼少期に芽生えた感覚

「神奈川で過ごしていた子供の頃は野生児のようでした。でも父の仕事の関係で美術館に行く機会が多く、5〜6歳の時の記憶に、父を待つ間、暇すぎるので目の前の絵をジッと見て過ごしていました。そのうち子供なりに、『この赤がキレイ』とか『この青が好き』という感じで色とか形とかをボンヤリながらも意識しながら見始めていたような気がします。でも、一番楽しみにしていたのは、美術館の帰りに父と一緒に美味しいものを頂く事でした」と幼少期を振り返る。
美術館での父の教え「触るな、騒ぐな、走るな」という環境の中で彼は自然に「意識して見る」という行為を獲得していったようだ。



バンド解散から沖縄へ

バンド「CRAZY-LUNCH(クレイジーランチ)」で、曲作りとボーカルを担当。このままプロになって音楽で生きていく、と周りも思っていた大学最後の年に彼は大学院進学を決意する。それも沖縄。


バンド時代。

物心ついた頃から父の書斎にあった東松照明の写真集に心惹かれていたという周也さん。インタビューの際、黒いリュックサックから取り出したのは、東松の写真集『日本』(1967年)『太陽の鉛筆』(1975年)。復帰前後、沖縄の離島を巡り風景や人物を撮っていた東松照明がいかにしてあのような写真(被写体との心的距離の近さ、地域や土地の神聖な行事の撮影など)が撮れたのか、東松の写真編集の技術、「群(ぐん)写真」という手法。

ずっと疑問に思っていたことを研究するために、バンドを解散して沖縄県立芸術大学大学院への進学を決意した。



3つのキーワード

「東松照明、沖縄、美術批評家土屋誠一」
この3つが彼を沖縄へ向かわせた。
現在、周也さんは土屋誠一准教授の指導のもと博士論文を書いている。そして土屋さん主導のもと2年前に「写真研究会」が発足。写真を研究する周也さんにとっては全国の若手批評家や写真家との交流も場も作られた。

「写真って謎なんですよ」
今は皆がインスタとか携帯で写真を撮っている時代。
絵画は技法があるけど、写真は学ばなくても誰でも撮れる。
そんな中で写真の市場との関係や評価と価格の関係など興味深いんですというこの話には 、私もつい身を乗り出して聞きていた。

「破天荒な人生です」と語る彼は、この春に結婚をしたそうだ。それも大学時代からのお付き合いで、卒業後に決まっていた就職先を辞めて、一緒に沖縄についてきてくれた彼女と。
「結婚式の前に受賞の知らせがあり、彼女の両親も喜んでくれて少しはこれから親孝行もできるかな」とはにかみながら瞳を輝かせた。

最後に、「これからもずっと沖縄で研究を続けていくのですか?」という質問に
「いるべきところにいる。そのスタンスでこれからも「写真」という表現を見続けていきたい。」と、挑発的な未来を見据えて飄々と答えてくれた批評家・北澤周也の今後が楽しみだ。

※東松照明 (とうまつ・しょうめい)
1930年、名古屋市生まれ。戦後日本を代表する写真家の一人。20歳から写真を始め、愛知大学卒業後に岩波写真文庫を経てフリーに。1969年初めて沖縄を訪れ、72年の復帰の日を那覇で迎え、そのまま居住。73年には宮古でも7カ月間滞在する。沖縄に深い思いを寄せ、県内の写真家に大きな影響を与えた。沖縄の写真集に「太陽の鉛筆」「光る風 沖縄」などがある。2012年死去。




【北澤周也プロフィール】


1989年 神奈川県横浜市生まれ
2017年 沖縄県立芸術大学造形芸術研究科 修士課程修了
2019年 沖縄県立芸術大学大学院芸術文化学研究科後期博士課程在籍
専門は写真論。批評家としても執筆活動中。

* 第16回『美術手帖』「芸術評論募集」次席
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19727
《SNS》
Twitter https://twitter.com/crazysion
Facebook https://www.facebook.com/shuya.kitazawa




【筆者プロフィール】


本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。




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