マキさんが祖母と交換ノートを始めたのは2018年のウークイから。パーキンソン病を患っている祖母の記す文字は彼女には衝撃だった。ゆっくりとゆっくりと記されていく言葉。握りしめた鉛筆から伝わる生きる力。たった4行の文章を書くのにかかる時間の長さ。
その文字の「カタチ」を彼女は作品へと昇華させた。
個展のタイトルは「遠くからきこえるあなたのかたちー祖母との交換ノートよりVol.2」。
照明を落とした展示会場を埋め尽くすトレーシングペーパー。そこに浮かび上がる黒や深い青の無数の文字が重なり合い、鈍い光を放ち、響鳴している。
見上げる空間に広がる文字が、しだいに夜空の星屑を思わせ、私はいつの間にか壮大な宇宙に包まれている錯覚に陥った。
彼女の表現は、場所や空間全体を作品として体験させる「インスタレーション」と呼ばれる芸術手法だ。
衝撃の2時間
マキさんとの現代アートの出会いは、大学進学を考え、金沢を訪れた際に立ち寄った「金沢21世紀美術館」。現代彫刻家アニッシュ・カプーアの「世界の起源」という作品との出会いだ。壁に大きな黒い丸。これはただ壁に塗られているのか、それとも穴なのかと衝撃を受け、2時間もその作品の前に立ち尽くしていた。彼女はこの作品に触発を受けて「現代アート」の道を歩み始めた。
1年前からは詩のワークショップにも通い始めた。詩人・白井明大氏のもと「言葉」と向き合い、創作の領域が広がった。それが新しい作品としてカタチになる日も近い。(9月7日(土)の琉球新報紙面「琉球詩壇」に掲載予定)
タマナハマキの表現は現在進行形だ。
マキさんの話を聞きながら、私は自分の祖父(父親の父)の書いた「おとしだま」という文字が心に浮かんだ。畑仕事をしていた祖父の乾いた太い指から力強く記された文字は、その生き様でもあったかのように逞しいものだった。
インスパイア。
マキさんの作品が私の記憶の扉をあけた。
謎解きの醍醐味
「現代アートは難解だ」という声をよく耳にする。展示された空間(場)、そこに置かれた作品を「どう読み解けばいいか分からない」と。少なくとも「美しい」だけでは伝わらないのが現代アートかもしれない。
芸術作品は、アーティストが日常からすくい取った何らかの感情を、形のあるものへと具現化するために様々な素材にアプローチして形を作り、表現の在り方、方法(文学、絵画、彫刻、映像、写真、もしくは舞台など)を模索する。
鑑賞者はその作品の持つ「普遍性」を紐解いていく為に、おのずと自分の内面と向き合うことになる。そして、作品を通して気づいたこと、気づかされたことが共通体験となって作品を鑑賞したという体験になる。
大袈裟に言ってしまえば、まるで謎解きのような作業が、現代アートの醍醐味だと、彼女の作品を見てあらためて思った。
【タマナハマキプロフィール】
玉那覇 真希
1991 沖縄県生まれ
2017 沖縄県立芸術大学環境造形専攻修了
沖縄を拠点に作家活動を行なっている。
2019 8月
遠くから聞こえるあなたのかたちー祖母との交換ノートよりvol.2ー/沖縄県立芸術大学
HP https://tamanahamaki.jimdofree.com/
Instagram https://www.instagram.com/maki.tamanaha/?hl=ja
今後の予定
* 「第11回アジアファイバーアート展」へ出品
2019年9月24日〜10月31日 国立美術館(マレーシア)
【筆者プロフィール】
本村ひろみ
那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。