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ある夏の夜が教えてくれたこと 100cmの視界から―あまはいくまはい―(55)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

今年の夏の夜、私が体験した怖い話。事故のけがもだいぶ回復し、久しぶりに1人で夜のお出掛け。ずっと会いたかった友だちとディナーをすることに。あまりに楽しくて店を出たのが午後11時。自宅までは電車で1時間かかります。

最寄り駅は車いすが使いにくいので、来た時と同じように、1人で徒歩15分の駅に向かおうとしたのですが、道に迷ってしまったのです。携帯のナビを設定したのだけど、1分歩いてもナビは止まったまま。ナビが反応しないことって、時々ありますよね。

通りすがりの人に道を聞こうとしたのですが、店が閉まった町に人通りはありません。その時、携帯の充電が残り20%だと気づいたのです。ヤバいじゃん!

勘を頼りに動いていると、電動車いすの動きが遅い。「あれ? 故障の前兆? ここで壊れたらどうしよう。終電に間に合うかな?」。検索したいのだけど、携帯の充電が心配でできません。おなかも痛くなってきて…。でもトイレを探す時間ないし、車いすのバッテリーも心配です。

「今夜は路上で? ホテルは取れる? 明日の仕事はここから行く? 車いすが壊れて動けなくなったら…」と不安は募るばかり。

勘だけを頼りに移動し、大きな道にたどり着き、どうにか駅に到着しました。

夏休みはヘルパーさんも一緒にたくさん遊びました

車いすの動きがおかしいと感じたのは気のせいだったようで、駅に着くといつもと変わりません。携帯の充電も20%ならまだ大丈夫。完全にパニクっていたようです。

何に不安を感じるか、どれくらい感じるかは、人によっても状況によっても全然違うのですね。そして不安が募ると悪循環になり、普段はなんでもないことが気になって仕方がなくなると痛感しました。

パニックになったら深呼吸をする、好きな音楽を聴く、トイレに行く、家族に電話するなど、いろいろな対処法があると思います。パニックを想定して準備しておくのは大事ですね。

でも、いざパニックになると、パニックになっていることにすら気づかず、ただただ動転してしまうこともあるかもしれません。

パニックになった人や心配性な人に対して「落ち着いて。それくらい大丈夫だよ」と声を掛けるより、ただ話を聞いてあげること、一緒に動いてあげることも大切だと改めて気づきました。

また、夜中に子どもが「トイレに行くのが怖い」と言った時も、「なんでそれくらい?」と流したり、「1人で行ってよ」と怒るのではよくないと思うようになりました。

パニックのおかげで、寄り添うことの大切さに気づかされた一夜となりました。

(次回は9月24日に掲載します)

伊是名夏子

いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。

 

(2019年9月10日 琉球新報掲載)