<金口木舌>芸術の父


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 芸術分野における「パトロン」の語意を辞書風に説明すれば「芸術家、芸術上の主義・活動に経済的、精神的な保護を与える人や機関」となる。語源をたどればラテン語の「父」に行き着く

▼古代エジプトやギリシャの時代、中世、近代に至るまで、君主や教会の庇護(ひご)の下で芸術家の創作活動が花開いた。ルネサンス期の芸術家を支えた貴族や聖職者も歴史に名を残した
▼芸術作品は乾いた心に潤いを与えてくれる。刺激的な作品によって人々が覚醒することもある。自由で豊かな創作活動は良質なパトロンと言うべき文化施策とそれを支持する人々によって守られる
▼文化庁は芸術活動を守り育てるべき父親の役割を果たしているだろうか。国際芸術祭「愛知トリエンナーレ」への補助金全額不交付という決定に批判が上がっている。日本の文化行政の質が厳しく問われる事態となった
▼問題となった企画展「表現の不自由展・その後」は刺激的な内容を含んでいたが、それも含めて創作活動だと考えたい。一度決まった補助金が簡単に打ち切られれば創作活動は萎縮する。事実上の検閲である
▼出演者の1人が刑事罰に問われ有罪判決が出たことを理由に、文部科学省の所管団体が助成金の交付内定を取り消した件も同じだ。言論や表現の自由を軽視する横暴な父親の振る舞いは見過ごせぬ。息が苦しくなるばかりだ。