<社説>県が不服審査申し出 係争委は適法か判断を


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この記事を書いた人 琉球新報社

 玉城デニー知事は、辺野古新基地建設で埋め立て承認撤回の効力を一時停止させた国土交通相の決定を不服として、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会(係争委)」へ審査を申し出た。

 辺野古新基地建設問題を巡って3度目の審査を行うことになった係争委だが、2015年は県の申し出を審査の対象外として事実上、門前払いをしたし、16年は国の指示が適法か否かの判断はしなかった。第三者機関として求められた役割を果たしたとは言えない。
 地方自治体に対する国の関与を巡り、争いが生じた際にその妥当性を審査する第三者機関が係争委だ。3度目の今回は国の決定が法的に正しいのかを踏み込んで判断してほしい。
 県は係争委への審査申出書で(1)沖縄防衛局は行政不服審査制度で執行停止を申し立てることはできない(2)国交相は内閣の一員であり、防衛局の申し立てに対して判断できる立場にない―と指摘した。
 国の機関である沖縄防衛局が、本来は私人(国民)の権利救済を目的とする行政不服審査制度を使って国交相に承認撤回の効力停止を申し立てた。これに対し全国の行政法研究者110人が「違法行為にほかならない」と声明の中で断じている。さらに国交相がそれを審査するというのも、身内のお手盛り以外の何物でもない。結論ありきの出来レースだった。
 係争委による過去2回の判断のうち、15年は翁長雄志知事が取り消した辺野古の埋め立て承認を国交相が効力停止にしたことが審査された。係争委は防衛局を「私人と同じ立場」とする国交相の解釈に疑問を呈しながらも、「審査の対象に該当するとは認められない」と知事の申し出を却下した。
 16年には、国交相が知事による「埋め立て承認取り消し」を取り消すよう是正の指示を出したことを受けて、翁長知事が、国による「是正の指示」を取り消すべきだとして審査を申し出た。係争委は国と県の協議を促し「普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて、納得できる結論を導き出す努力をすることが最善の道」との見解を示したものの、国の是正の指示が適法か否かは判断しなかった。
 係争委は、国の関与が違法であると認めた場合には、必要な措置をするよう勧告できる。係争委が県の主張を認めなかった場合、防衛局は工事を続け、県は高裁に提訴するとみられる。
 係争委は国と地方を対等な関係に置くとする地方分権改革の一環で設置された。米軍基地建設という国策に関わる事柄だからといって、地方自治体の意向に取り合わないのなら、係争委の存在意義が問われる。国と県、双方の主張を公正に審査して、良識ある判断が下されることを期待したい。