<社説>大浦湾くい打ち着工 無謀な国策の強行やめよ


<社説>大浦湾くい打ち着工 無謀な国策の強行やめよ
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 政府はどこまで無謀な態度を押し通すのか。なりふり構わず沖縄に国策を強要する専横を到底許すことはできない。米軍普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設で防衛省が20日、大浦湾側での護岸造成に向け、くいの打ち込みを始めた。

 大浦湾は2019年に国内で初めて、科学者らでつくる非政府組織(NGO)によって世界的にも重要な海域を認定する「ホープスポット」(希望の海)に認定されている。大規模な地盤改良や埋め立ての強行が、生物多様性の豊かな大浦湾に深刻な打撃を与えることは間違いない。ただちに工事をやめるべきだ。

 沖縄防衛局は大浦湾側で7月初旬からくい打ち試験を実施し、今月15日までに完了した。県は、くい打ち試験は通常の工事の着手とみなすとの立場から、玉城デニー知事が「十分に協議が調うまでは工事を始めるべきではない。しっかり厳守していただきたい」と防衛局に求めていた。

 だが、その要請は一顧だにされることはなく、大浦湾のくい打ちが強行された。

 事前協議は、13年に埋め立てを承認した仲井真弘多元知事が「実施設計に基づき環境保全対策、環境監視調査、事後調査などについて詳細を検討し、県と協議すること」との留意事項を付したことに基づき実施される。環境への影響を監視し、対策を講じるための仕組みであり、国も同意したはずだ。

 だが、工事の進展を急ぐ国は15年、事前協議の打ち切りを県に通知し、辺野古の護岸工事に着手した。今年1月にも大浦湾側のヤード(資材置き場)造成工事について県が事前協議を申し入れたが、国は「ヤードは協議の対象外だ」と突っぱねた。

 事前協議の主目的は、大規模な埋め立て工事が環境に与える影響を監視し、対策を講じることだ。新基地建設の進捗(しんちょく)に固執するあまり、環境への負荷を軽視し、一方的に協議を打ち切ったり、協議に応じなかったりする国の姿勢は不誠実極まりない。

 そもそも、何を協議の対象とするのか、国の一存で決められるものではない。本来対等であるはずの県に主従関係を強いるような対応では信頼関係を築くことは不可能だ。

 大浦湾の護岸工事を巡っては4件で予算が170億円増額されていたことが明らかになった。防衛局はこれまでも十分な説明をしないまま変更契約で予算を膨張させている。ずさんな計画を反省することなく、公金を貴重な海を埋め立てるため投げ入れ続ける公共工事は異様だ。

 大浦湾は、地盤改良後も沈下する恐れがあると専門家が指摘するほどの軟弱地盤が存在している。工事の長期化だけでなく、完成後の補修費にも膨大な費用がかかることも予想される。環境への負荷や新たな基地負担を県民に強いることになる新基地建設は断念すべきだ。