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抗争の歴史、平和につなぐ 沖縄と韓国・光州の作家が描く渇望 佐喜眞美術館「互いに織り成す物語」展に寄せて 金俊起


抗争の歴史、平和につなぐ 沖縄と韓国・光州の作家が描く渇望 佐喜眞美術館「互いに織り成す物語」展に寄せて 金俊起 ホン・ソンダムの「摩文仁の風」(2024)
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 沖縄を歌った歌で筆者が最も印象的なのは、The Boomの「島唄」である。この曲を福岡で働くキュレーターが歌ってくれた瞬間から音律の魅力に惹かれたが、歌詞の意味を知ってさらに心に響いた。それはデイゴの花が呼んだ嵐―沖縄戦―を経験し、孤立無援となった島の絶望のなかで「海よ、宇宙よ、神よ、命よ」と叫びながら、必死に歌い直す愛の歌だ。

 1980年5月18日から10日間の民主化抗争を繰り広げた韓国・光州にも島の歌がある。キム・ウォンジュンの「岩の島」だ。この歌もまた孤立の地に押し寄せた巨大な暴力を語る。

 「ある夜、暴風雨に巻き込まれてすべて消え去り、残ったのは岩の島と白い波だ」という歌詞に言う暴風雨とは、5・18光州抗争のことだ。沖縄を揺るがした戦争の嵐のように、光州を外部から遮断して政府軍が虐殺の現場にしたこの事件の傷跡は、今でも癒(い)えていない。

 毎年、光州市立美術館は海外の都市を訪れ、地域間交流を活性化する企画展を開催している。2024年は沖縄の佐喜眞美術館で「互いに織り成す物語」展を開催する。光州市立美術館と沖縄のキュレーター、チェ・ソヨンと豊見山和美による展示のキーワードは「平和」だ。光州の作家8人と沖縄の作家6人の作品には、虐殺と抗争、占領にまつわる歴史と現実が盛り込まれている。岩の島と島の歌にこめた絶叫と愛の物語は、過去にとどまらず現代の現実に迫る芸術の力を伝える。

 沖縄と光州をそれぞれ切り裂いた国家主義・帝国主義の暴力の傷を平和のメッセージに昇華させようとする二地域の芸術家たちの作品には、生命という最終審級が宿る。

 韓国を代表する民衆美術の大家、ホン・ソンダムが新たに用意した大作「摩文仁の風」は、摩文仁の断崖での住民の犠牲と、光州抗争に献身した市民をオーバーラップさせたものだ。昔、佐喜眞美術館の佐喜眞道夫館長の案内で摩文仁の断崖を下から見上げた経験があるホン氏は「いつかこのシーンを絵に描こう」と思っていたという。絶望の崖を落ちる犠牲者が蝶に変身し、人権・民主・平和を掲げた光州市民へと連なる生命平和の物語の設定は、沖縄と光州を「織り成す物語」の核心である。

 光州と沖縄、韓国と日本は、米国という帝国の力の直接・間接的な影響下にある。多数の市民が虐殺された光州抗争には軍部だけでなく米国にも責任があることを明らかにしようと、韓国の市民や学生らは反米の旗印の下で闘ってきた。沖縄も第2次世界大戦の終盤に大きな犠牲を払っただけでなく、今もなお過重な米軍基地の負担に苦しむ。

 抗争の歴史を歩んできた光州と沖縄は人権と平和を切望する地域であり、本展はその渇望を描いた物語になるだろう。島は、孤立を避けるために〈つながり〉を待ち望む。互いに求め合う連結は愛の始まりだ。光州と沖縄は、これから新しい恋を始める。

 (光州市立美術館館長)


 「互いに織り成す物語」展は8月28日~9月23日、宜野湾市の佐喜眞美術館で開催する。営業時間は午前9時半~午後5時、火曜休館。入場は一般900円、大学生・シニア(70歳以上)800円、中高生700円、小学生300円。