ポーランドとロシアの関係が緊張し、両国軍がウクライナで衝突する可能性が排除されなくなってきた。ポーランドは中東欧における大国だ。英国がEU(欧州連合)を脱退した後、ポーランドのヨーロッパの政治と安全保障に与える影響が強まっている。ウクライナ戦争において、ポーランドはNATO諸国がウクライナに武器や物資を供給する重要な拠点となっている。
この関連で、4月28日にSVR(ロシア対外諜報(ちょうほう)庁)が興味深い声明を発表した。
<ロシア対外諜報庁長官のC・V・ナルイシキンは次の通り述べた。ロシア対外諜報庁が入手した情報によると、ワシントンとワルシャワはウクライナにおける「歴史的領有」に関し、ポーランドの軍事・政治的統制を確立する計画を検討している。「統合」の第一段階として、「ロシアの侵略から防衛する」ためというスローガンの下でウクライナの西部諸州にポーランド軍を進駐させることになる。現時点でジョー・バイデン米政権と今後の作業の態様について議論している。暫定的合意によれば、ポーランドはNATOの委任ではなく「有志国」の参加によって行動することになる。ポーランドが有志国を募って、独自の判断でウクライナに平和維持部隊(軍隊)を派遣するという計画だ>
SVRがインテリジェンス情報を外部に発表することは珍しい。
ポーランドの狙いは、ウクライナの対ロシア戦争を支援することだけではない。SVRによるとポーランドの狙いは第2次世界大戦で失った領土の回復だ。
<いわゆる平和維持部隊は、ロシア軍と直接衝突する危険が最も少ないウクライナの地域に配置することを計画している。さらにポーランド軍がウクライナ軍よりも配置されている戦略的対象に対する統制を段階的に凌駕(りょうが)していくことを優先的「戦闘目標」にしている。ポーランドの特務機関は、既に現時点で(ウクライナ)ナショナリズムに対抗する民主的「ワルシャワ」を志向する「合意する能力のある」ウクライナ・エリートの代表者を探している。ポーランド当局の計算では、ウクライナ西部における予防的進駐はかなりの確率で国家分裂をもたらす。その際、ワルシャワは「ポーランド平和維持部隊」が駐留している地域に対する実質的な統治権を得る>
19世紀末から20世紀初頭、露仏同盟、英露協商、英仏協商という国際条約が結ばれ露英仏の三国協商(実質的な同盟関係)が形成された。第一次世界大戦でこれら三国が連合国を形成する。SVRはこの歴史が繰り返されているとみる。
<本質において、問題はポーランドにとって第一次世界大戦後の歴史的「取り引き」、すなわち三国協商で西側連合国が当初「ボリシェビキ(共産主義者)の脅威」から住民を保護するためにウクライナの一部を占領する権利をワルシャワに認め、その後、ポーランド国家の一部にこの領土を含むことを認めた事例を繰り返す試みである。この出来事の結果は、植民地秩序の一目瞭然たる実例で、「大ポーランド」建設の手法を基盤とする強制的ポーランド化である>
今後、ウクライナ戦争がNATO加盟国であるポーランドまで広がる可能性がある。そのような事態になった場合、人類は第三次世界大戦勃発の危機に直面し、それは沖縄の安全保障環境に悪影響を与える。ウクライナ戦争については、それが沖縄にどういう影響を与えるかという視座から分析することが重要になる。
(作家、元外務省主任分析官)