ピッコロモンドといえば…“アップルパイ”
サクサクのパイ生地にほんのりと甘いリンゴ、那覇市首里石嶺町にあるパンとケーキの店「ピッコロモンド」では連日、人気のアップルパイを買い求める多くの客でにぎわう。多い時には1週間で1万個を売り上げる人気ぶりだ。
2代目店主の中田勝則さん(60)は朝から仕込み作業に追われる。多くを語らず職人気質な中田さんには別の一面が。9月に行われた体形美を競うコンテスト「モデル・ジャパン2024沖縄・那覇大会」で優勝し、11月の全国大会に出場する。エプロンの下に抜群のスタイルを潜めた「マッチョ」なパン職人だ。
阪神淡路大震災で被災
広島県出身の中田さんは先代店主の崎原盛功(せいこう)さんの娘で妻の香織さん(54)と1995年、神戸市内の別々のケーキ屋に勤めていた際、阪神淡路大震災で被災した。中田さんは「住んでいたアパートはひびが入り住めなくなり、仮設住宅で過ごした。ライフラインが止まり、仮設の水道で水をくみ店の営業につなげた」と振り返る。その後、香織さんの実家のある那覇市に2人は移り住んだ。
米軍将校クラブで働いていた先代の味を受け継いで
ピッコロモンドは1977年創業。店頭にはパンや焼き菓子、ケーキが並び、焼き上がったパンの香りが来店客を幸せな気分へといざなう。米軍の将校クラブで働いていた先代の盛功さんの味を受け継いだアップルパイは、創業時のままの製法で多くのファンを引きつけ、今なお店の一番人気だ。
工房での攻防?
パン職人の朝は早い。午前4時から中田さんは10種のパン生地を仕込み、立ったままの作業が数時間続く。朝食はつかの間に工房の隅で。目の前の焼き立てのパンには手をつけず、カロリーを制限した食事をとる。「食事というより、体づくりのトレーニングだ」と手早くかき込む。ともに工房に立つ香織さんは「試作品を味見する際に少ししか食べないで、残りは私が食べる。私ばかり太る」と笑う。「没頭できるものが見つかっていいなと思う。スタッフみんなで挑戦を応援している」と背中を押す。
いくつになっても挑戦を続ける意義とは
コロナ禍の運動不足解消を理由にジムに通い始めた中田さん。凝り性な性格も相まって、2年足らずで筋骨隆々の引き締まった体に変貌を遂げた。コンテストではポージングなど審査員や観客の前での表現力も求められる。「ずっと人前に出るのが嫌いでずっと避けてきた。この年になって一番の挑戦になった」とおおらかな表情を見せる中田さん。食事制限中は「大会後に何を食べるかばかり考える」と明かすものの、熱中することがあって日常に張りが出るという。大会後に何が食べたいかとの問いには「甘い物。あとは店のアップルパイ」とはにかんだ。
(高辻浩之)