ウクライナ傭兵問題 捕虜の地位適用されず死刑の恐れ<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ウクライナ軍においては、英国、カナダ、ポーランドなどからの外国人兵士が重要な戦力を構成している。ウクライナはこれらの兵士は傭兵(ようへい)(雇い兵)ではなく、義勇兵であるとして国防軍傘下の国際旅団に組み入れている。外国人兵士にウクライナ国籍を付与しパスポートを渡している場合もあるようだ。

 国際法的には、義勇兵と傭兵ではその扱いに大きな違いがある。1977年に採択されたジュネーヴ諸条約追加議定書の第1追加議定書第47条で傭兵について、こう定めている。

 <1 傭兵は、戦闘員である権利又は捕虜となる権利を有しない。/2 傭兵とは、次のすべての条件を満たす者をいう。/(a)武力紛争において戦うために現地又は国外で特別に採用されていること/(b)実際に敵対行為に直接参加していること。/(c)主として私的な利益を得たいとの願望により敵対行為に参加し、並びに紛争当事者により又は紛争当事者の名において、当該紛争当事者の軍隊において類似の階級に属し及び類似の任務を有する戦闘員に対して約束され又は支払われる額を相当上回る物質的な報酬を実際に約束されていること。/(d)紛争当事者の国民でなく、また、紛争当事者が支配している地域の居住者でないこと。/(e)紛争当事者の軍隊の構成員でないこと。/(f)紛争当事者でない国が自国の軍隊の構成員として公の任務で派遣した者でないこと。>

 すなわち傭兵に関しては捕虜の資格が認められないので敵側に捕まると殺人罪や傷害罪などの容疑で逮捕される。しかし、ロシアはウクライナ軍編入のような手法は傭兵である事実を隠蔽(いんぺい)するための偽装に過ぎないと主張している。

 2日、ロシア国防省スポークスマンのイーゴリ・コナシェンコフ少将は記者会見で「キエフ当局は傭兵を法的に擁護するためにウクライナ軍傘下の名簿に加え、ウクライナ国民であることを示す新しいパスポートを発給している。しかし、このようなことをしても傭兵を助けることにはならない」(6月2日「イズヴェスチヤ」電子版)と述べた。

 ロシア軍と「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の警察部隊は、ウクライナの戦闘員を捕らえたときには、形式的にウクライナ軍に所属していることやウクライナ・パスポートを所持していたことは無視して、徹底的な尋問と裏付け調査によって傭兵かどうかを判断するということだ。コナシェンコフ氏は「今日までにウクライナの傭兵は約半分に減少した。すなわち6600人から3500人に減少した」と付言した。ロシア軍は傭兵に関しては徹底的に殺りくすることを目的にしている。

 「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の刑法では、殺人罪は死刑になる(ロシアでは刑罰としての死刑はあるが、執行を停止すると宣言されている)。9日、「ドネツク人民共和国」最高裁判所は、英国人2人、モロッコ人1人の傭兵に死刑を言い渡した。死刑におびえ国際義勇兵がウクライナから逃亡することをロシアは促している。一部週刊誌の報道では、ウクライナ軍に義勇兵として参加している日本人もいるという。この日本人戦闘員がロシア軍や「人民共和国」警察部隊に捕らえられ、「人民共和国」で起訴された場合、殺人罪で死刑を言い渡される危険がある。

(作家・元外務省主任分析官)