【沖縄】沖縄市桃原にある「名幸花鉢工場」。県産素材を使った陶器の植木鉢を一から作る工場は、県内でここだけだ。創業から約60年。職人たちは今も一つ一つ手作業で土を型取り、ピークの時期は1日千個の鉢を作る。プラスチック製の安価な商品が普及する中、4代目代表の名幸歩さん(28)は「赤土の素朴な色に対する需要はある」と自信を見せる。
名幸花鉢工場は、米占領下の約60年前、名幸さんの曽祖父・葆真(しげまさ)さんが創業した瓦工場が前身だ。しかしコンクリート家屋の普及で瓦需要が減り、約40年前、主に農家向けに生育用の植木鉢を作るようになった。
1990年代に入ると、ランの花を中心に観葉植物が普及し、安値で軽いプラスチック製の鉢が台頭する。その対抗策として工場が作り始めたのが、複数の苗を一つの鉢に植えられる贈答用の鉢だ。赤土を使った陶器の素朴さも魅力となり、経営の活路を切り開いた。
陶器はプラスチックに比べて重く割れやすいが、細かい穴があるため鉢内の水気が適度に保たれ、植物が呼吸しやすいという。
工程は、まず赤土とクチャ(泥岩)を混ぜた土を作る。次にろくろにはめた石こう製の型に土を入れ、回しながら手の感覚を頼りに形を作る。鉢は約50種あるが、高さ20センチのもので一つ20秒ほどという早業だ。
「力加減を間違えると遠心力で腕が振られる」と話すのは、17年目の職人島袋守さん(53)。鉢は1~2週間かけて乾燥させた後、高さ2メートル、奥行きと幅4メートルほどの巨大な窯で丸一日、約千度で焼き、完成となる。
鉢は県内のほとんどのホームセンターに並ぶが、工場の存在はあまり知られていない。「みんな職人肌だから、営業してこなかった」と苦笑する名幸さん。それでも人気は根強く、最近は若者向けの「オシャレ」なカフェや、全国展開の雑貨店にも卸し始めた。時代が移り変わっても、商品が愛される限り、職人の技は継承されていく。(長嶺真輝)