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「藤井伝説」新章へ タイトル戦不敗の18連勝


「藤井伝説」新章へ タイトル戦不敗の18連勝 将棋の全冠独占達成者
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 午後8時59分。「負けました」。永瀬前王座が頭を下げると、藤井八冠も丁寧にお辞儀を返した。終局後、大勢の報道陣がなだれ込み、感想を聞かれると、「(今シリーズは)どれも難しい将棋で実力不足を感じた。この経験を糧にしたい」と喜びをにじませた。
 王手をかけて臨んだ京都市内のホテルでの第4局。白っぽい和服を身にまとった。対局前のお決まりとなっているお茶を一口含んで気合を高め、次第に“勝負師の顔”になっていった。静寂に包まれた対局室。午前9時、立会人の合図で開始されると、鋭いまなざしで一手一手、丁寧に進めた。
 難所の局面では扇子を片手に、盤に覆いかぶさるようグッと身を乗り出し読みふけった。相手の永瀬前王座は練習将棋のパートナーで、手の内を知られている。戦型は研究が進む角換わりから、中盤は永瀬前王座がペースを握った。その後は形勢が二転三転したが、最後に抜け出し相手を投了に追い込んだ。
 最多の29連勝、17歳11カ月での最年少初タイトル…。次々と記録を更新し、棋界を引っ張るリーダーとなった。今後は保持した八冠の防衛戦を続けながら、前人未到の道を歩む。21歳の第2幕が始まる。
 今シリーズの流れを変えたのは、開幕局で敗れた後の第2局。藤井八冠は「まとめるのに苦労した」と言いながらも、玉を通常とは逆の右側に囲う工夫を見せた。この形だと受け身になりやすいが、藤井八冠は30分を超える長考で積極的に仕掛けてその後の熱戦を制した。相手の読みを外す趣向で、常識にとらわれない柔軟さが光った。
 全八冠と比較されるのは、1996年に羽生善治九段が7タイトル時代に達成した全冠独占。羽生九段の初タイトルは89年の竜王だったが翌年に失冠、タイトル戦の敗北を何度か経験しながら樹立した。藤井八冠が2020年の初タイトルから失敗なく、到達したのはまさに偉業といえる。
 「強くなりたい」。14歳で棋士となり、謙虚にこの言葉を言い続けた。貫禄が漂ってきた青年の眼前には何が見えているのか。これからもひた向きに、盤に向かっていく。
 新たな伝説が始まった。11日、将棋の第71期王座戦5番勝負で藤井聡太七冠が永瀬拓矢王座を破り、初の全八冠を独占。最後の駒を置いた指先には力がこもっていた。出場した18度のタイトル戦を全て制し、若き第一人者の「不敗神話」は続いていく。 (1面に関連)
将棋の第71期王座戦5番勝負第4局で勝利し、史上初の全八冠独占を果たした藤井聡太新王座=11日夜、京都市