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緊迫するイスラエル・イラン関係 事態の拡大は回避か<佐藤優のウチナー評論>


緊迫するイスラエル・イラン関係 事態の拡大は回避か<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 1日にイスラエル軍がレバノンに侵攻した。それに対抗し、同日、イランがイスラエルの各地に約200発のミサイルを撃ち込んだ。米軍とイスラエル軍によってほとんどが迎撃されたが、一部はイスラエルに着弾したようだ。

 〈米メディアが報じた衛星画像では、イスラエル南部ネバティム空軍基地に着弾したミサイルで建物や滑走路が損壊。イランは初めて極超音速ミサイルを使ったとされ、一部が迎撃網をすり抜けて被害を招いた可能性もある。中部テルアビブ近郊の対外情報機関モサド本部近くにも着弾したと伝えられる〉(4日、時事)。

 イスラエルがイランに対してどのような報復をするかによって、今後のシナリオが変わってくる。最悪の場合、第3次世界大戦や核戦争に発展する。

 〈(イスラエル軍の)ハレビ軍参謀総長は「イランは多数の市民の命を脅かした」と非難。「重要な標的を見つけ、精密かつ強力に攻撃する方法がある」と述べ、イランの主要施設や要人を狙う意向を示唆した。/報復の対象としては、イランの石油関連施設が浮上している。イランは原油確認埋蔵量が世界4位で、原油や関連製品の輸出は、制裁で疲弊したイラン経済を支える重要な収入源だ。/(中略)/イラン核関連施設への攻撃を促す強硬な意見もある。ネタニヤフ氏はかねてイランの核開発を警戒し、イスラエルの存亡に関わるとしてイラン核武装阻止を掲げる。/イランの核施設はこれまでもイスラエルの関与が濃厚な破壊工作を受けてきた。だが、多くは地下深くで攻撃は難しく、強行すればイランとの全面戦争を招く恐れもある〉(前掲)。

 8日、筆者は通信アプリでテルアビブ在住のモサド(イスラエル諜報特務庁)の元高官と以下のやりとりをした。

 ―レバノン情勢はどうなっているか。

 「状況はイスラエルの統制下にある。むしろイスラエルが懸念しているのはイランとの関係だ」

 ―イスラエルがイランの核施設を攻撃し、成功すれば、イランとしてはもはや守るべきものが無くなるので、地上軍のレバノン派遣に踏み込むのではないか。

 「イスラエルは、現時点でイランの核関連施設に手をつけるつもりはない。あなたが言うように守るものが無くなったイランがイスラエルとの全面戦争に踏み切るリスクがあるからだ」

 ―報道ではイスラエル軍がイランの石油関連施設を攻撃するという憶測がある。

 「確かに石油関連施設を攻撃すれば、イランは経済的に大きな打撃を受ける。と同時に原油価格が高騰し、世界的規模で経済的な混乱が起きる。このような事態になれば混乱を引き起こしたイスラエルに対する国際的非難が強まる。これはイスラエルの国益を毀損(きそん)する。イスラエルはイランの軍事施設のみを攻撃して、イランに事態の拡大を避けようというメッセージを送る」

 第3次世界大戦や核戦争を防ぐ方向でイスラエルが動き始めると思う。

(作家、元外務省主任分析官)

 当連載を本にした「佐藤優のウチナー評論2」(琉球新報社刊)の出版を記念し、佐藤優氏の講演会を15日(火)午後6時から那覇市泉崎の琉球新報ホールで開く。前売り1200円、当日1500円。前売り券はデパートリウボウ、ファミリーマート(イープラス)、琉球新報中部支社・北部支社で取り扱っている。