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【寄稿】榎本空 「おとゆいオーケストラコンサートinなはーと」を聴いて 沖縄クラシック萌芽の瞬間


【寄稿】榎本空 「おとゆいオーケストラコンサートinなはーと」を聴いて 沖縄クラシック萌芽の瞬間 公演当日のゲネプロ(総稽古)シーン
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 8月30日、那覇文化芸術劇場なはーとで開かれた「おとゆいオーケストラコンサートinなはーと」を聴いた。ウィーン交響楽団からのゲストと、沖縄のクラシック奏者を交えた「おとゆい・フェスティバル・オーケストラ」によるウィンナー・ワルツを中心とした楽曲。琉球古典の奏者による歌三線、および舞踊。そして、作曲家の三ッ石潤司によって新たに編曲された「かぎやで風2.0」。彩り豊かな音と命の祝宴に、なはーとの会場は形容し難い、静かで、持続的な熱気に包まれていた。

 わたしたちが目撃したのは、おそらくのちにある出来事として振り返られることになるような瞬間、つまり沖縄クラシック音楽が萌芽(ほうが)する瞬間だったように思う。それはぎこちなく、手探りで、中途にあり、しかし決然としていて、可能性の方へと向けて開かれており、うつくしかった。今も、「ばら騎士」のさぁ、踊ってと促されているようなメロディーに、身体が自然と動いてしまう。

 この公演は、一般社団法人ビューローダンケが数年にわたり主催してきた「クラシックでしまくとぅば」というワークショップから生まれた。沖縄という地にあって、自分たちのものではないクラシック音楽を演奏することの意味、そこにこのワークショップの中心的な問いがあり、今回の公演はひとつの暫定的な答えであったと言えるだろう。

 それは沖縄のクラシック演奏家たちが、逡巡(しゅんじゅん)しつつも自らの声を見つけていこうとする実験であり、またその音楽を沖縄という複雑な社会において開いていこうとする試みである。

 これから迎える80年目の喪の時にあって、きっとわたしたちはかれらの音楽を必要とするだろう。おとゆいという蕾(つぼみ)に露が落ちて花開くのを、ともに証したい。

 (文筆家・翻訳家)