自民党総裁選が告示された。事実上、次期首相を決める選挙となる。過去最多の9人が立候補した。
派閥裏金問題や旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との根深い関係によって自民党は深刻な政治不信を招いた。9氏は政治から離れた国民の心をどう引き戻すか、具体策を示しながら活発な政策論争を交わしてほしい。経済・財政問題、少子化・子育て対策、エネルギー政策などが国民の関心事であろう。
沖縄からも強い関心をもって総裁選の行方を見守らなければならない。9氏は17日、那覇市内で演説会を予定している。基地の重圧に苦しむ沖縄の実情にどう対処するか、明確なビジョンを求めたい。
9氏に注文したいのは、政府が普天間飛行場の返還に伴う辺野古新基地建設を強行することで沖縄の基地負担軽減を進めることが可能だと考えているのか、きちんと答えてほしいということだ。
今回の立候補者は閣内や自民党内で政府方針を支持してきた面々だ。辺野古新基地建設を強行する現在の政府方針を踏襲する姿勢で総裁選に臨んでいるであろう。
しかし、大浦湾側に存在する軟弱地盤の改良などで総事業費は膨張し、完成時期すら定まっていない。仮に新基地が完成したとしても米軍が引き続き普天間飛行場を使用し続ける可能性があることを在沖米軍高官が示唆している。
破綻していると言ってもいい新基地計画に固執し続けては沖縄の基地負担軽減は実現しない。新基地計画に代わり普天間飛行場の危険性を除去するための抜本策を提示してほしいのである。
米軍人による相次ぐ性暴力への対処も必要だ。事件だけでなく政府から県への通報態勢も問題となった。人権に関わる問題である。日米地位協定の改正を含め、それぞれの政策を示してほしい。
外交・安全保障に関する岸田政権の姿勢についても修正を求めたい。2022年末、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、「台湾有事」を想定した「南西シフト」をうたった安全保障3文書の閣議決定によって日本の防衛政策が大転換した。これは日本を戦争準備へと導くものであり、その影響を最も受けるのが沖縄である。宮古、石垣、与那国で急激に自衛隊配備が進んだ。沖縄本島においても地対艦ミサイル部隊が配備された。自衛隊基地の重圧が新たに加わったのである。
自民党の麻生太郎副総裁は昨年8月の台湾での講演で「台湾有事」を念頭に「戦う覚悟」が求められていると述べた。9氏はこのような発言に同調してはならない。「中国の脅威」を前提とした防衛力増強ではなく、対話による緊張緩和を促す外交・防衛政策を追求すべきだ。
国民、県民は暮らしと平和を守る新たなリーダーを求めている。政策と共にその覚悟を総裁選で示してほしい。