<社説>中国が台湾包囲演習 武力威嚇行為許されない


<社説>中国が台湾包囲演習 武力威嚇行為許されない
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 あからさまな武力による威嚇行為だ。台湾海峡の緊張を激化させ、偶発的な軍事衝突が起きる危険性もある。到底許されるものではない。

 中国軍は14日、台湾を包囲する海空域で軍事演習を実施した。台湾を取り囲む形で6カ所の演習区域を設定し、艦隊や戦艦、戦闘機を動員した大規模な演習を展開した。台湾周辺で過去最多の中国軍用機が確認されている。

 演習は、台湾の頼清徳総統が10日、台湾が正式名称とする「中華民国」の双十節(建国記念日)での演説で「一つの中国」原則を認めない立場を表明したことへの対抗措置とみられる。中国軍は「国家主権と国家統一のため正当で必要な行動だ」と主張した。

 中国の習近平指導部は頼政権を「台湾独立派」と見なして敵視し、武力統一の可能性をちらつかせてきた。演説で「中華人民共和国は中華民国の人々の祖国にはなり得ない」と訴える頼氏の政治姿勢に対し、中国は厳しい批判を繰り返してきた。

 しかし、選挙という民主的な手続きによって台湾民衆に選ばれた総統や政権を武力で威圧する行動を国際社会は容認しない。「一つの中国」という原則に基づく軍事演習を強行する一方、国外の声を「内政干渉」と退けるような独善性に対し、国際社会は厳しい目を向けていることを中国は自覚すべきである。

 石破茂首相は「台湾海峡や周辺の平和と安全は地域にとって極めて重大だ」と述べ、米国務省のミラー報道官も「深刻な懸念」を表明した。

 欧州連合(EU)の欧州対外活動庁は「武力や威嚇による現状を一方的に変更するいかなる行動にも反対する」との声明を発した。英国の首相報道官は中台間の問題解決について「軍事行動ではなく両者の建設的な対話が必要だ」としている。中国は国際社会の一員としてこれらの声に耳を傾けるべきである。

 台湾を包囲し、威嚇する軍事演習は、中国の常とう手段となっている。頼氏が総統に就任した今年5月にも台湾を取り囲む演習を強行した。2022年8月、23年4月と8月にも台湾周辺で大規模な演習を展開している。

 中国軍の軍事行動は現実的な脅威であり、偶発的な軍事衝突が起きる可能性は否定できない。そうなれば台湾に近く、米軍基地を抱える沖縄は安全保障上、深刻な影響を受ける。それは何としても回避しなければならない。

 「台湾有事」を理由とした宮古、八重山、与那国での自衛隊増強が急速に進んでいる。中国軍の無謀な演習は県内の自衛隊増強や米軍基地の機能強化を加速させることにもつながり、県民の基地負担はさらに増すことになる。

 日本政府がとるべき道は中国と台湾の対話を促す外交努力であろう。中国、台湾双方と関係を築いてきた沖縄県も緊張緩和に向けた地域外交を展開する必要がある。