福祉手帳の性別削除 本格的支援の第一歩に


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 厚生労働省が「精神障害者保健福祉手帳」の性別欄を2014年にも削除する方向で検討に入った。性同一性障害(GID)の人に配慮し希望をもたらす積極的な判断として、率直に評価したい。

 一手帳の見直しだが、こうした取り組みが他省庁や地方自治体の公文書、証明書などの記載見直しに波及すれば、GIDの人の負担緩和、社会参加を後押しするだろう。フロントランナーとして、厚労省に実効ある改革を期待したい。
 保健福祉手帳を持つことで税の控除や一部交通機関の運賃割引などの支援を受けられるが、現在は手帳を提示する際、戸籍上の性別が明らかになる恐れがあるため、利用を控える人が多いという。
 GIDの人らでつくる「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」(東京、山本蘭代表)は、パスポート、健康保険証といった公的な証明書などの性別欄の削除や表記変更も政府に求めている。国や社会の成熟度が試される。関係機関は要望に最大限応えてほしい。
 研究者の調査を基にGIDの人は全国に約4万6千人いるとの推測もあるが、正確な数は定かでない。国は実態把握と平行して、現在、保険適用外となっているGID医療の改善を急ぐべきだろう。
 GIDに専門的に対応可能な医療機関は限られている。先進例は岡山大病院で精神科や産婦人科、泌尿器科、形成外科が連携し診療にあたり、診断ミス防止のため院外のセカンド・オピニオンを必須としている。県内はGIDのホルモン療法や手術を行う医療環境が限られ、本格的な治療のため県外、海外に出向く人が多いようだ。
 障がいに苦しむ人の立場に立てば公文書の性別欄見直しは小さな一歩にすぎない。GIDの人々の精神的・経済的負担を緩和するためにも、関係機関は医療支援の抜本的見直しに踏み込んでほしい。
 岡山大病院の調査によると、1998~2012年の受診者約1450人のうち、約6割が自殺を考えたことがあり、3割が自傷や自殺未遂を経験。3割が不登校になったと回答した。重い数字だ。
 GIDの人々の人権、生存権を最大限保障する社会の在り方を、社会全体で考えたい。この障がいへの偏見をなくすため、学校でも男女混合名簿の導入などを推進すべきだろう。公民館など生涯学習の場でも啓発を強化してほしい。