<南風>託される思いに


社会
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 夏の甲子園出場をかけた沖縄予選が続いている。順調に日程が消化されていれば、今日は準決勝が行われる。球児たちの熱い夏。勝者は敗れたチームの思いを受け継いで先へと進む。託し、受け継ぐ。そのドラマと沖縄の歴史を重ねる人もいるだろう。

 記憶に残る大会や試合がいくつもあるが、中でも忘れられないのが、現地で取材した第92回全国高校野球選手権大会だ。エース島袋洋奨を擁する興南はこの年の選抜大会を制し、県勢初の夏制覇、史上6校目の春夏連覇を期待されていた。私は準々決勝の聖光学院戦から甲子園入りし、アルプススタンドの盛り上がりを取材して回った。

 試合は2回、聖光学院に3点を奪われ、今大会で初めて追いかける展開となった。だが興南は直後に2点を返すと着実に加点していき、4回には6対3と試合をひっくり返したのだ。その瞬間、スタンドで応援する人々は絶叫したり抱き合ったりして喜びを爆発させていた。「すごいすごい」「もう大丈夫だよね」そんな叫び声が聞こえた。取材中だった私も思わずほえていた。

 この試合を10対3で勝ち上がった興南は続く準決勝の報徳学園戦でも5点差をひっくり返して勝利し、その勢いのまま決勝では東海大相模を13対1で破って悲願の夏優勝を果たした。

 1958年に首里が県勢として初めて甲子園出場を果たしてからおよそ半世紀。球児たちの思い、応援し見守り続けた県民の思いは次代に託されてきた。「沖縄県民みんなで勝ち取った優勝です」。優勝インタビューで我如古盛次主将はそう語った。オレンジに染まる球場で聞き泣きそうになったのを覚えている。

 この夏の沖縄代表はどのチームになるだろうか。夢を託された彼らの夏が日本で一番長くなることを願っている。

(小橋川響、ラジオ沖縄アナウンサー)