<南風>ストーリー


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 最近、学生時代の同級生に会いました。

 彼は新婚旅行で、1週間ハワイに行ったとのこと。

 私が「1週間ハワイだと、ゆっくりできたでしょ」と尋ねると、「それもそうなんだけど、ハワイの歴史みたいなものを聞けてよ、それが良かったな」と。

 なんでも、行く島々で、その島で踊られている伝統的なダンスの意味、アメリカの一部に組み込まれ、そして現代に至るまでの話を説明してくれる「語り部」が付いてくれたのとのこと。

 「ハワイって言えばさ、『あったかくてリゾート地で良い場所』っていうくらいのイメージしかなかったからよ。どこでも『ストーリー』っていうのがあるんだなって。現場でハワイのストーリーを学べたのが良かったかな」と友人がポツリ。

 …たしかにそうかもしれません。ハワイにはハワイの、沖縄には沖縄の、朝鮮半島には朝鮮半島の、そして、日本には日本の「ストーリー」があるはずです。

 それを勝手な色眼鏡で、「右か左か」で分けたり、「脅威」と言ってみたり、「遅れている」と言ってみたり、「分かり合えない」と言ってみたり。そんな固定観念こそが、相手を思いやること、丁寧に相手の立場に立って考えることを、忘れさせているのかもしれません。

 沖縄で新基地建設反対が盛り上がるのは「左翼が多いから」ではなく沖縄独自の「ストーリー」があり、朝鮮半島が今の姿になったことにも長年の「ストーリー」がある。その「ストーリー」に想(おも)いをはせずして、「今」のみを切り取り、沖縄や朝鮮半島を「論理的に」語っても、それはどうしても不十分になるのではないでしょうか。

 そして私自身も、「声は届かない」と嘆いて終わるのではなく、もう一度、「なぜ声が届かないのか」を知るため、日本のストーリーに想いをはせてみようと、自身を顧みたのでした。
(白充、弁護士)