<南風>すくぶん


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 恥ずかしながら、つい先日、「すくぶん(職分)」というしまくとぅばを知り、感慨を覚えた。人にはそれぞれすくぶんがあり、力を尽くしてなすべき務めがあるという意味だそうだ。

 この言葉を知った直後に出会ったのが、筆文字アーティストの田場珠翠(しゅすい)さん。同世代で、すくぶんを全うする姿に感銘を受け、すぐに出演を依頼。4月から月に1度、夕方のニュース(おきコア)の中で、即興で文字を書いて頂いている。

 初回のこと。生放送という独特の緊張感が漂うスタジオで、珠翠さんは全神経を集中させ、4メートルを超える大きな用紙にリズミカルに筆を運んでいく。その姿に魅せられていると、あっという間に作品は仕上がり、トークの時間に突入。

 紺碧の、躍動感溢(あふ)れる文字を前に私は、どう表現すればこの独創性やスケール感を伝えられるのかと考えあぐねているうちにタイムアップ。私が口にできたのは「圧巻ですね」とありきたりな一言。あー情けない。

 さらに私の力不足で伝えられなかったことがある。放送終了後、スタッフのひとりが「なぜ、両手で書くのですか」と質問。(私は疑問さえも抱けなかった)。それに対し、珠翠さんはさらりと答えた。「生まれつき片耳が聞こえないハンディがあるので、使える手は両方使いたいと訓練してきたのです」と。普段から左手で箸を持つなどして両手の筋力や感覚を鍛えてこられたとのこと。なんと凄(すさ)まじいチャレンジ精神!

 こうした、映像では伝えられない物語を言葉にするのが私の仕事なのに…それもできず、またまた猛省。

 こんな私めがすくぶんを全うできる日は、いつになるやら…ですが、諦めたらそこが最後。よし、歩みは遅くとも前へ進もう。

 と、年を重ねる毎に自分でも驚くほど立ち直りが早くなっている。オバちゃんになるのも悪くない…笑。(平良いずみ、沖縄テレビアナウンサー)