<南風>うちなーんちゅサイエンティスト


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 量子波光学顕微鏡、物理有機化学、流体力学、量子情報科学、注意欠如・多動症(ADHD)。これらは進学や就職で一度は沖縄を離れたうちなーんちゅ科学者たちが、本学(OIST)で活躍する研究分野だ。

 感染症の新薬開発にはウィルスや病原菌の構造を可視化することが欠かせない。宮古島出身で、米国加州で17年間を過ごした物理学者が開発するのが、それを可能にする新型の顕微鏡だ。感染を防ぐことができたら何百万人の命を救えるとの思いから日々奮闘している。

 かつて図鑑や科学雑誌を貪(むさぼ)り読む、恐竜好きの少年だった宜野湾市出身の若手研究員が取り組むのが、新材料を二酸化炭素から作製するなど、有機化合物を合成し、新たな物理的性質を探ることだ。世界レベルの研究者になるのに欠かせない英語は、大阪での大学院生時代に身につけた。

 沖縄市出身の男性技術員は、東京の大学寮生活で大勢の仲間に恵まれた。大学院修了後、東京の大学付属研究所に勤めたが、3・11震災をきっかけに大事に想(おも)う沖縄に帰郷した。OISTではマイクロ流体プラットフォームという、医療や産業への応用度が高い装置の作製に励んでいる。

 女性も活躍する。那覇市出身の発達心理学者は、国費で米国中西部の大学院に進んだ。家族療法学の専門性を活(い)かし、OISTでADHD児とその家族対象の行動療法プログラムを立ち上げた。自身の仕事と育児の両立は大変だが、子どもの心の健康のための社会システム作りに燃える。

 母親がうちなーんちゅで、神奈川県で育った量子情報科学者。帰省先と言えば沖縄だった。博士課程修了後に渡仏、量子コンピュータの開発に関わった。今は人工知能が世界を賑(にぎ)わすが、高感度磁気センサーや超高速コンピュータに欠かせない「量子」の時代がくると確信している。
(名取薫、沖縄科学技術大学院大学広報メディアセクションリーダー)