<南風>第4のK


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 今年も眩(まばゆ)いばかりの夏がやって来た。沖縄戦が終わった72年前の今日も強い日差しが照りつけ、蝉(せみ)が鳴いていたのだろうか。戦時下、飲み水さえ欠く中で、必死に生きようとした人々の痕跡は、今でも島のあらゆる場所で見られる。

 戦後の沖縄は、本土復帰を経て飛躍的な経済発展を遂げた。それを象徴するのが、公共事業、基地経済、観光産業といえる。「K」で始まるこれらの3分野に、民間主導型の新たな牽引(けんいん)役として提唱されたのが、科学技術だ。私はこれを「第4のK」と呼んでいる。その一翼を担うのが、沖縄の振興と自立的発展、そして世界の科学技術の発展に寄与することを目的に設立した本学(OIST)だ。

 人類が直面するエネルギーや食糧、医療、環境などの問題解決には技術革新が欠かせない。その源泉となるのが基礎研究で、OISTでは現在58の研究グループが稼働し、各研究室を主宰する教授陣の下、650名の研究員・学生が日々研究に勤(いそ)しんでいる。目指すのはシリコンバレーのような、研究成果の技術移転やベンチャー創出などによる産業集積地だ。

 OISTには、戦火を逃れてやってきた人物もいる。また、自分の権利や要求を声高に叫ぶ文化圏からやってきた人が、相手を気遣う日本人や、親切な沖縄の方々に接することで、同様に行動するようになったと自覚していく。より良い研究職を求めて人々が移動する科学の世界で、「OIST出身者」が広める価値がここ沖縄にあると強く思う。

 「今日あなたが無駄に過ごした1日は、昨日死んだ人がどうしても生きたかった1日である」。この一文はいつしか座右の銘となった。戦争や内紛、病気や強制労働で尊い命を失った人々に報いる意味でも、全力で生きなくては。第4のKを目指す私たちの挑戦はまだ始まったばかりだ。
(名取薫、沖縄科学技術大学院大学広報メディアセクションリーダー